とりあえずナータンを肩に、良太はしばし呆然と自分の部屋を見回した。
炬燵は、ある。
ナータンのトイレやご飯の器やトレー、窓際にはネコタワーもある。
だが、それ以外の全てがまるで嘘のように変貌していた。
「小公女セーラかよ!」
重厚なモスグリーンのカーテン、モスグリーンの絨毯。
カーペット、ではない。
こんな絨毯だったら帰ってきてうっかり寝ちまっても風邪ひかないかも……いやいやいや! そんな単純な問題じゃないって!
落ち着いたダークブラウンのクローゼットにデスクに椅子、放り出してあった資料などの本もきれいにダークブラウンの書棚に収まっている。
ノートパソコンが置かれているデスクには新しい電話器、フロアスタンドに、何より、部屋の真中にでんと居座っているのはダークブラウンのヘッドボードも新しいベッドだ。
セミダブルサイズだろう。
見慣れた安物のパイプベッドやパイプハンガーは影も形もない。
「だれだよっ! んな、勝手に、人の………まだ十分使えるって言ったのにっ!」
誰だと口にしなくても、心当たりは約一名しかいない。
「あ、鈴木さん!」
「あら、お帰りなさい、良太ちゃん」
勢い込んでオフィスに降りた良太は、鈴木さんののんびりした声に迎えられた。
「夕べ有難うございました、あのっ……」
「夕べナータンにご飯あげたら、綺麗に食べたわよ。今度のキャットフード、おいしいのかしら」
良太は、はあ、と生返事をする。
「あ、あの、夕べ、その、俺の部屋、何か変わったことありましたか?」
「良太ちゃんのお部屋? いいえ、まさか泥棒でも入ったの?」
ぶんぶんと首を横に振る。
その逆なんだけど。
「別にいつものとおりだったわよ。ベッドの上にスーツ脱ぎ捨ててあったから、ハンガーにかけておいたのはあたしだけど」
「あっ、そうですか、ありがとうございます」
では、鈴木さんが帰ったあとか。
「そういえば、平造さんが珍しく工藤さんのお部屋にあがって行ったわね」
そうか、それで謎が解けた。
工藤がいなくても平造さんが………
待ちかねた電話は、夕方、スタジオで編集の作業中にようやくかかってきた。
良太は廊下に出ると、思わず声を上げる。
「あんた、何で、勝手にあんな………」
「何だよ、お前のお歳暮のお礼だろ?」
嫌味かよっ! 今年はでも年代物のラム酒とかを張り込んだんだからナっ!
下手くそな字でお歳暮と書いたら、またしても『OLDMAN』のマスターにかすかに笑われた気がするが。
「だって、パイプベッドだってまだ使えたのに……あんたがとっかえたかっただけだろっ!」
「あんなやわなもんでやったら、潰れる……」
ぶちっ! と切ったのは、夕べの今日であれやこれやが怒涛のように舞い戻り、頭のてっぺんから沸騰しそうになった良太の方だった。
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