ほんの少し届かない5

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 もともと今良太が使っているこの部屋は、軽井沢の別荘を管理している平造に使わせようと工藤は思っていたらしく、隣りの工藤の部屋と行き来できるようにドアでつながっていたようだ。
 今はドアをつぶして壁にしてしまい、二つの部屋に分かれている。
 タイル張りのバスルームがトイレと仕切りのない欧風な造りになっているのも、工藤が半分アメリカ人であるという理由からではなく、工藤が育った横浜の家の造りが欧風だったからと、曽祖父母が亡くなってから工藤の面倒をみてきた平造がこのビルの設計を請け負った建築家にいろいろと注文を出したからだ。
 当時、平造は自分が使うより来客用にと思ったようで、この部屋に併設したバスルームには、工藤の部屋と同じくアメリカ製のバスタブが入っている。
 そのためバスタブも大きめだから良太が足をのばしてもまだ悠々だ。
 軽井沢に腰をすえた老獪は最近ではほんのたまに東京に出てくるくらいである。
 平造は今工藤の曽祖父が大事にしていた古い軽井沢の別荘を管理しながら一階の隅にある使用人部屋で寝起きをしている。
 直接工藤の曽祖父母と面識はないが、何とはなしに工藤の曽祖父母に対する思いをわかっていて、広すぎた横浜の家を税金対策のために手放す際、別荘は残した方がいいと進言したのも平造だ。
 その後、使う予定もなくしばらく放ってあったこの部屋を、良太が借りることになった。
 名目上は社員寮だが、それにしても管理費三千円だけで借りれるような代物ではない。
 三年前、ボロアパートからここに越した時、引越し業者が持ってきたものといえば、布団一式と今も使っている炬燵や猫グッズ、少々の衣類に本やノートの類だけ。
 それから増えた家具は、簡易ベッドにパイプハンガーやテレビ、ノートパソコンの他はネコタワーくらいなもので、高性能なシステムキッチンや広いバスルームと良太自身の家具とでは未だにちぐはぐだ。
 もっとも、大らかな母親譲りか、大抵のことにはすぐに馴染む良太は、高い天井の下で秋冬は炬燵に温まる生活が結構気に入っている。
 和食を好むくせに、子どもの頃の習慣からか、工藤は絨毯の床に炬燵を置いている良太の部屋には何となく違和感を覚えるらしい。
 高輪にある工藤のマンションやいつかクリスマスパーティに行った『プラグイン』の河崎のマンションなどとは比べ物にならないが、とにかく、バスルームにある大きめの窓からバスルームにつかりながら、ちょっとした夜景を楽しめるのも良太にとってはひとつの贅沢なのだ。
「俺ってお手軽ぅ…」
 いい加減、もっとまともなベッドを買ったらどうだ、とは工藤が再三言っていることだが、さすがに仕事で使うことを考えてスーツや靴などはいくつかそれなりのものを揃えたものの、ベッドはまだ使えるし、と良太は言い返す。
 ただし、良太一人ならだが。
 工藤が文句を言うのは、たまに工藤が良太にちょっかいかけると、ギシギシいうパイプベッドが壊れやしないかと気になる状況になるわけで。
「わーーーっ! 俺の都合なんかおかまいなしなんだからな、工藤のオッサンはよ!」
 つい、過去の記憶が蘇り、誰が見ているわけでもないのに良太は顔を赤くして思わず湯でバシャバシャと顔を洗った。


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