本音を言えば、良太に都合なんかないに等しい。
今だって携帯をシンクの前に置いているのだ、いつ、誰がかけてくるかもしれないから。
まるで悪い男に引っかかって、いつやってくるともわからない男を待っているとかいうどこぞの演歌の歌詞のようであるのが、また良太は悔しいのだが。
わかっていて、工藤からの連絡を待ってしまうんだからどうしようもない。
「今夜は大阪に泊まりか…」
バスタブに身体を沈めて良太は呟いた。
窓の外の夜景は降り続く雨にけぶっている。
十時を過ぎた頃だから工藤はまだ接待だろうか。
良太もたまに同行するが、接待とはいえ、工藤はいきつけのクラブに連れて行ってもスポンサー相手でもへつらうようなことはしない。
スポンサーや取引先の中にはそんな工藤を、偉そうに、とよく思わない輩もいるが、クラブのママや女の子たちをうまく使い、自分は一人寡黙に飲んでいるだけだ。
というか、どうやら接待やパーティなど工藤自身好きではないらしいとわかってきた。
「大阪だと、夕子ママの店かな……」
一度紹介してもらったことがあるが艶やかな美人だった。
すすき野のママも名古屋のママも博多のママも『それぞれ美人』らしい、秋山の話によると。
亡くなった恋人のちゆきさんは別格だけど、イタリアにいる加絵にルクレティア、お隣さんだったという佳乃や昔は代議士夫人なんてのがあっただけでなく、プロの女性陣だって工藤の周りには今も何人かいるわけだ。
そりゃ、工藤がママさんみんなとどうこうってわけではないかもしれないけれど、何の関係もないってこともないだろうし。
湯につかりながらぼんやりと考える。
「あちこちに女いるよな? あれだけの男だもんな~」
先ごろ青山プロダクションに移籍したイケメン人気俳優の小笠原は、妬まし気に工藤のことをそんな風に言っていた。
妙に工藤に対して対抗心を燃やしているようだが。
工藤には俺の知らないことはいくらもあるんだろう。
それに嘘つきだし。
「あんときだって、クルーザーなんかでごまかしやがって!」
夏の終わり、工藤はルクレティアとのことでいい加減なことを言ったがために臍を曲げた良太を、加絵から買わされたというクルーザーで強引に懐柔した。
思い出すと懐柔されてしまった自分に腹が立つ。
「ちぇ、勝手によろしくやってるがいいや! クソオヤジ!」
風呂からあがると、良太はミネラルウォーターを飲みながら炬燵に座り、ノートPCのメールをチェックして、しばらく作りかけの企画書をいじってみたり、テレビをつけてニュースが流れる画面を眺めたりしたが、やがてPCのパワーを落とす。
気がつくともう午前一時をまわっていた。
今夜は電話も鳴らなかった。
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