俳優だけでなく、スタッフも文句を言っている。
ディレクターも怒り始めた。
「一体どうしたんだ、広瀬くんは?」
「あの、広瀬くんからメールが入ってます。何か、自分にはもうできない、とかって」
その時、唐突に阿部が言った。
秋山がすぐに阿部に歩み寄ると、阿部は自分の携帯を秋山に差し出した。
秋山とアスカは驚いてそれを覗き込む。
『自分にはもうできそうにありません。ご迷惑をおかけして申し訳ありません』という文面が携帯の画面に浮かんでいる。
「何よ、これー!」
アスカが確認すると、確かに良太のアドレスからだ。
「これだからど素人はよ~」
すかさず大澤が喚く。
「申し訳ありません、ちょっとナーバスになっているだけなんです。どうか、もうしばらく待ってください」
秋山はディレクターに深々と頭を下げた。
「あとほんのワンシーンだし、調子もよかったのに、変だな」
共演者のブーイングの中、サブディレクターが呟いた。
「おかしい」
秋山はスタジオから廊下に出ると思わず口にした。
大体、何かあったら良太なら俺にまず知らせるはずだ。
阿部の携帯にしかもメールとか、あり得ない。
秋山は徐々に冷静さを取り戻し、とにかく工藤に連絡を入れた。
良太が来ない、どこにもいない、と秋山から連絡を受け、ちょうど大阪からの新幹線に乗っていた工藤は入っていた打ち合わせをキャンセルしてスタジオに駆けつけた。
「工藤さん!」
工藤の姿を見ると、硬い表情のアスカが駆け寄った。
工藤はすぐさま、ディレクターとスタッフ、共演者らに頭をさげ、必ず良太を連れてくるので、しばらく時間が欲しい、責任は自分が取る、と断言した。
「わかりました。何かよほどのことがあったに違いない。ここは広瀬くんのカットだけペンディングということで進めますが、できるだけ早く連れてきてください」
普段工藤が頭を下げるようなところを見たことのないディレクターは、少し驚きながら言った。
「突発的な何かが起きたとしか思えません」
秋山は工藤とともにスタジオから出ると語気を強めた。
「これはやはりお話しておいた方がいいかと思うのですが…」
「鴻池か?」
良太が鴻池について不信感を抱いていたことが気になっていた工藤は聞き返した。
「何か気づいてらしたんですか?」
秋山はそれに続けて、実は気になったので鴻池と良太のあとをつけたんです、と良太がこのドラマに出演するに至った時のことだと話し始めた。
「今思うとあの強引さは気になります」
「っていういか、鴻池は良太を脅していたってことだろーが! 何で早く言わないんだ!」
「申し訳ありません、まさかこんな事態は予期していなかったので」
「とにかくここに良太が現れるかもしれない、ここでスタンバっとけ」
秋山とアスカの心配そうな顔を残して工藤はスタジオを飛び出した。
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