ACT 1
「良太、ちょっと休みなさいよ。夕べっから寝てないんでしょ? ここは私たち、いるから」
自分のデスクで電話と携帯を並べてを睨みつけている良太に、タブレットでニューヨークの記事を探る秋山とともに大テーブルに陣取っているアスカが声をかけた。
目の前には何杯目かのコーヒーが置いてある。
オフィスのテレビも昨夜からつけっぱなしだ。
工藤に連絡が取れないのだ。
工藤の同期だという佐古という人物に連絡を取ろうにも会社自体が応答してくれない。
アメリカン証券のビル自身がテロに巻き込まれ、死傷者が多数出ているという事実だけはニュースで何度も聞いている。
工藤の乗るはずだった便の搭乗者名簿には工藤の名前はなかった。
既に事件から一日が経ち、時刻は午後十時になろうとしている。
秋山は昔のつてを頼ってしきりとニューヨークに連絡を取っているが、ニュースで伝えている以外の情報は入ってこない。
鈴木さん、アスカ、南澤奈々のマネージャー谷川、志村とそのマネージャーの小杉、軽井沢からは工藤の別荘に住んで管理している平造まで、とりあえず家に送り届けた奈々を除く青山プロダクションの面々が顔を揃えていた。
その時ドアが開いた。
皆が振り返ると、井上と小林千雪が入ってきた。
千雪は工藤プロデュースで映画化された「かぜをいたみ」の作者であり大学の法学部助教である。
「まだ、連絡ないんか?」
みんなは無言で頷く。
静寂を破って電話が鳴った。
「青山プロダクション!」
良太は飛びつくように出たが、
「工藤はニューヨークにいるのか!?」
いきなり大きな声が返ってきて、良太もちょっと驚く。
「あ…鴻池さん、お世話になっております」
みんなは脱力して、浮かせた腰を降ろす。
「え、はい、いえ、大丈夫です。足止めをくっているだけです。はい、伝えます。ありがとうございました」
相手はスポンサーだ、
連絡がないとは言えない。
重い沈黙が続く。
たまに鳴る電話は、どれもスポンサーや業者からの連絡で、アスカ主演のドラマの進行も気になるところだった。
映画のクランクイン前にスケジュールをこなさなくてはならない。
不安と苛立ちが募る。
「まだ、連絡ないのか? 工藤から」
そこへ綾小路京助までがやってきた。
千雪の相棒的な存在で、イケメンセレブ或いは付き合う相手は引く手数多のタラシという評判の男である。
工藤から聞いたところによると、千雪の従姉である小夜子の夫は財界のトップ企業である東洋グループ次期CEO綾小路紫紀で、京助はその弟にあたるらしい。
東洋グループは青山プロダクションにとっては大事なスポンサーでもあるわけで、良太としては綾小路の御曹司である京助に対してあまり下手なことも言えない立場ではあるはずなのだが、良太は初対面からしてこの男が気に食わなかった。
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