千雪の小説の中で、その命を奪ってでも、大切な友人を冤罪に落とそうとも、愛する者を誰にも渡したくなかった真犯人の心がひどく愛しい。
その情念が、静かに流れるKIRIYAの声と降りしきる雪とに交差して垣間見える。
千雪の小説とKIRIYAの音が、まだ形を成さない映像を良太の頭の中に見せ、真犯人の切ない思いが、良太の工藤への気持ちにオーバーラップする。
ヒロインにはなれなくても、俺はあんたを好きなのに。
俺だったら殺したりなんか、できない。
あんたを殺す前にとっとと俺が消えるよ。
「お前は消えるなよ、俺の前から」
そんな良太の心の呟きが聞こえたかのように、工藤が耳元で囁いた。
「……はあっ………あんたこそ……消えたら、承知しない……からな……」
そうだ、自分の前から大切な人が消えていくのを見たんだから、工藤だって怖いのだ。
「どこ…までも………追いかけてやるから………な………」
俺だけじゃなくて……。
身体の内側からじりじりと工藤の熱で焼ける。
それでもまだ燃え尽きたくない。
まだ……いやだ……
まだ……
燃え尽きたくない……
「ああ、俺も追いかけてやる」
ほんとに……?
ウソだって、離れないから……―――。
霧弥がニューヨークに戻り、少しばかり平穏な日々が戻ってきたオフィスが、思いもかけない知らせに揺れた。
「ヤラセだって?!」
知らせを持ってやってきた俊一に、居合わせた小笠原が声を上げる。
「ウソ、『ナカムラプロ』が?」
良太もパソコンの前から立ち上がって、二人の話に割ってはいる。
「伊沢らしいぜ。『明日は』で素人にシナリオ渡してでっちあげの体験談、言わせてたらしい」
特番は取りやめになり、CBSテレビはこの不祥事の対応に右往左往している。
伊沢はどうやら当分、テレビ局には出入り禁止になったらしい。
でっちあげは許せないが、おそらく伊沢の社会的地位もこれでおしまいかもしれない。
当然とはいえ、厳しい世界だよな。
「工藤さんに、ありがとうって伝えて」
榎木佳乃は数日前、オフィスに寄ってニューヨークに戻ると告げた。
彼女はしばらく軽井沢にある工藤の別荘で過ごしていたらしい。
工藤はいなかったが、「またくるわ」と笑顔で去っていった。
梅雨の合間の昼下がり。
これで工藤も少しは心配ごとから解放されるだろう。
良太はぼんやりと、今日も出ずっぱりの工藤に思いを飛ばした。
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