何のことはない、十年来の悪友であるひとみにあらぬ疑いをかけて大笑いされたり、良太の元カノとかいう女の子が気になってみたり、今度は小笠原が良太と酒を飲んでいるだけで苛ついている自分を工藤は自嘲した。
気づくと、工藤の昔の女なんかを妬いている良太がいじらしくて、つい、言い訳なんかしている自分がいる。
まったく、考えていることとやっていることが矛盾しているな。
最近機内はもちろん、あらゆるところで喫煙スペースが減っていることもあるが、意識的に煙草の本数は減らしている。
だが、こう苛つくときには手持ち無沙汰で煙草が欲しくなる。
仕方なくアルコールを口にしつつ、三列前に座っているはずのトラブルメーカーのことを考えると工藤は頭痛がしそうになった。
厳密に言えば、おそらくトラブルメーカーになり得る存在、である。
「工藤さん、どうかしましたか?」
そんな落ち着かない工藤のようすに、隣に座る志村嘉人が声をかけた。
「あ、いや。お前も疲れたろう。スケジュールきつかったからな」
演技しているときとは打って変わって、まるで存在感を消してしまうがごとき物静かな男は、柔和な微笑を浮かべた。
常に淡々とマイペースで、他人に立ち入ることをしない代わりに、自分に立ち入らせることもよしとしない、さらりとした二枚目の外見を裏切る実は頑強な精神の持ち主である。
工藤の事務所にいるわけだから、志村もまたわけありの人生を送ってきた人間である。
子供のときから私生児ということで不遇な生活を強いられ、大学を卒業するかしないかのときにたった一人の身内である母親と実の父親を事故で亡くしている。
その父親がとある大会社社長であったため、思いも寄らぬ愛憎のトラブルに巻き込まれた。
そんな時、学生時代から演劇が好きで同好会に飽き足らず小劇団に所属していた志村は、下柳に勧められて工藤と会い、この世界に入ってきた。
天涯孤独という共通点があるせいか、最初は同じ劇団にいて自分にはその器はないと志村のマネージャーとして青山プロダクションに籍を置くことになった小杉と工藤くらいにしか心を許さなかった男だが、ここ数年張り巡らしていたバリアのようなものが消え、社内の人間、特に良太には軽口さえきくようになった。
それに歩調を合わせたように、嘉人の仕事に深みが出て、実力と人気のバランスがよくなった。
「良太の一途さをみてたら、突っ張ってる自分が恥ずかしくなっちゃいましたよ」
そんなことを志村は工藤にもらしたこともある。
フンと、工藤は負けん気な良太の顔を思い浮かべて笑う。
「しかし、俺が意図したことじゃ、さらさらないからな」
苦々しげに、工藤は口にする。
「え? 何がです?」
「いや、こっちの話だ」
眉をひそめた工藤とその、トラブルメーカーになり得る存在、を載せた機は雲海を下に見ながら一路成田を目指した。
真夏の太陽は連日惜しげもなく地球へと熱を放出していた。
「ただいまぁ、もう、日本て、どうしてこう蒸し暑いのよぉ~」
わめきながらオフィスのドアを開けてアスカが入ってきた。
中川アスカ、モデル出身の人気俳優のご帰還である。
「歩くときくらい文句をたれるな!」
「やだぁ、積乱雲まで発生してるぅ」
工藤の怒号もものともしないアスカのあとから現れた秋山が疲労を隠せないようすながら、苦笑を浮かべた。
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