シャツ一枚でのろのろとじゅうたんから身体を起こし、上着のポケットに携帯を戻してから、良太は散らばったズボンやタイなどを見回して苦笑した。
あーあ、あんなに絶対許さないって思ってたのに、簡単に悪党の手に落ちてる自分が笑えるぜ…。
「んで、その悪党! どこ行った?!」
上着はあるから部屋を出たわけではないだろう。
と、ドアが開く音がして振り返ると、工藤がバスルームから出てきたところだった。
いかにも紳士然と、身だしなみを整えて。
「俺は戻るが、お前はここにいていいぞ」
上着を羽織りながら、工藤が言った。
「俺も戻ります! 五分待ってください」
シャツ一枚という情けない格好のまま、蛇の抜け殻のようなズボンを掴むと、良太はバスルームに飛び込んだ。
ざっとシャワーを浴び、がーっとドライヤーを髪にあて、超特急で身なりを整える。
超特急のつもりだが、身体中がだるくて動きがついていけず、ズボンを履くのさえもどかしい。
「くっそー…」
バスルームを出ると、工藤は電話中だった。
電話が終わる前にと、良太は上着の傍にあったタイを結ぼうとするのだが、焦ってうまくいかず、もう一度結びなおす。
「大丈夫か?」
電話を終えた工藤が聞いた。
「だっ、大丈夫ですよ!」
工藤に続いて部屋を出ようと駆け寄った良太の胸元に工藤の手がつと伸びた。
「……!」
締まりきっていないタイをぎゅっと結ぶ指が少し首筋に触れただけで、良太の心臓が跳ね上がる。
馬鹿みたいに顔が熱い。
恥ずかしくて俯いたまま、工藤の後ろについていく。
だいたい、大丈夫かだと?! 誰のせいだってんだっ!
ホテルの廊下ではさすがに口に出せない悪口を心の中で喚きたてる。
一ミリも隙がないような涼しい紳士面をして、実はさっきまでめっちゃ、エロいことしてたくせにっ!
でも、俺が逃げ出したりしたら、きっとルクレティアとか引っ張り込んでたに違いないんだ。
エレベータの中で、良太は工藤からちょっと離れて工藤を斜交いに睨みつける。
もっとも、逃げようとか全く思っていなかったことは、この際置いておく。
にしたって、このシチュエーション、三流ドラマとかで上司が秘書をうまいことこましてるってやつみたいじゃないか。
って……、全くかっきりしっかりその通り、じゃん……
いろいろ考えるだけでぐったりだ。
工藤に続いてパーティ会場に入ると、同時に押し寄せる熱気と喧騒に、良太はさらに虚脱感を覚えた。
紫紀を見つけてカードキーを返し、一言二言話していたところへ、ルクレティアとアスカがやってきて何だかだと口々に言い始めた。
半分も理解できないまま、彼女たちの言葉は耳を通り抜けていくばかりで、良太は、ええ、はあ、を繰り返す。
二人が会場に戻ってからさほど間をおかずに、主催者側からお開きの挨拶があり、良太は思わずほっと息をついた。
下へ降りるエレベータはパーティ客で混雑し、いくつかやり過ごしてようやく乗り込んだものの、中は人いきれでこれ以上もなくむっとしている。
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