Isla De Pinos2

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「やっぱ、大会社の社長とかって食えない人が多いよな」
 鴻池にしても、紫紀にしても。
 それから大会社じゃないけど工藤にしても。
「まあ、鴻池よりは紫紀さんの方がなんぼかマシって気もするけど」
「鴻池にまたなんか言われたのか?」
 良太がつい口にしたのを聞きつけて、後ろから来た小笠原が良太の顔を覗き込む。
「あ? いや、別に。それよか、これからスタジオ直行だっけ? 悪いな、飛び込みの仕事頼んで」
「水臭いこと言ってんなよ! 俺とお前の仲で~」
 サングラスにMLBのキャップを目深にかぶり、白いシャツも爽やかげな小笠原は良太の首に回した腕にグイっと力を入れる。
「おい、苦しっ、放せってば!」
 ドラマの撮影の合間に『知床』出演の仕事を放り込まれた小笠原だが、羅臼岳に登ったり、標津町から根室海峡沖に出て鯨やイルカ、海の生態系を観るというかなりハードなスケジュールにも、仕事というより素のまま、良太には羨ましいくらい有り余る元気さでカメラに収まっていた。
 ただ自然を撮るだけではなく、時折思い出したように目の前の大自然の中に立つ『人間』のカットやナレーションとも違う『声』を入れる。
 良太のプランから下柳が、じゃあ、小笠原はどうだ、と言い出し、本人も乗り気で、スポンサー側も紫紀の「いいねぇ、それ」の一言で実現した。
 演技ではなく、自然に溶け込んだ小笠原のカットは思った以上にいい出来になりそうだと下柳も満足している。
「良太、仕事しすぎじゃねーのか? 飛行機の中で爆睡してただろ」
「見てんなよ、んなの」
 無防備なアホ面をこんなイケメン俳優に見られていたことが癪に障るし恥ずかしい。
 「パワスポ』の打ち合わせが入っている四時までに東京に戻らねばならない都合上、この便に乗る必要があって仕方なく小笠原だけでなく真中と良太も今回ファーストを取ったのだ。
「いいから、早く行けって! 真中、こいつが遊ばないようによろしく見張ってろよ」
「はーい、んじゃ、良太さん、お疲れ様でした」
「はーい、じゃねーだろ、こら」
 荷物を手に、リーチの差で小走りになりながら真中は懸命に小笠原のあとを追いかけた。
 二人がタクシーで走り去るのを見ながら、良太は自分もタクシーに乗り込んだ。
「重役出勤でさすが貫禄出てきたねー、プロデューサー殿」
 四時になる寸前に局の会議室に滑り込むと、早速シナリオライターの大山が嫌味で出迎えた。
 疲れているときには見たくもない顔だが、今は忙しくて大山など相手にしている暇はない。
 打ち合わせが終わり、タクシーでオフィスに戻ってきた時には八時を過ぎていた。
 すでに経理その他庶務等担当の鈴木さんも帰った後で、真っ暗なオフィスの鍵を開けて入り、明りをつけると、むっとする暑さから少しでも早く逃れたくてエアコンを入れる。
 二、三電話をかけてから、良太はとにかく着替えようと、一旦自分の部屋にエレベーターで上がった。
 一応社員寮ということになっているが、元々工藤が所有している二つの部屋のうちの一つだ。
 ドアを開けた途端、良太の帰りをまちわびていた猫のナータンが飛んできた。

 


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