擦り寄ってくるナータンをひょいと抱き上げて、ご飯を皿に盛る。
いない間は鈴木さんが面倒を見てくれていたはずだ。
いろんな人間が世話をやいてくれるせいか、ナータンは懐こい。
あの鬼社長ですら、スリスリされていた。
以前良太不在の時、工藤がナータンにご飯をやってくれていたらしいと鈴木さんから聞いたが、あの工藤がどんな顔で猫に対応してくれたのやら。
スケジュールを確認したら今日はマドリッドにいるはずの、工藤の仏頂面を思い浮かべて、良太はクスリと笑う。
二週間ほどろくに顔を見ていない。
怒鳴り声もなければないで、物足りない。
「ちぇ、あんな鬼が恋しいなんてな………」
ナータンを撫でてやりながら、良太はボソッとつぶやいた。
「おいこら、風邪引くぞ! こんなとこで寝てんなよ」
ちょっと肌寒い、と夢うつつに思いながら眠っていた良太は、大きな声にはっと目を覚ました。
十時頃だったか、部屋へ行こうと思いつつ、つい、そのままオフィスで寝てしまったらしい。
まさか、今日は帰ってくる日ではなかったはず、と多少の期待を込めて振り仰ぐと、そこに立っていたのは残念ながら工藤ではなく、午後に羽田で別れたはずの小笠原だった。
「……何…かあった? こんな時間に…」
壁にかかった時計の針がそろそろ十一時を指そうとしているのを良太は確かめる。
「明日オフだからさ、一緒に飲もうと思って」
小笠原は缶ビールや酒やつまみが入ったコンビニの袋を掲げて見せた。
「撮影は?」
頭がまだ覚めやらぬ状態で、良太はたずねた。
「とっくの昔! それよかお前、何か食ったのか? あれから『パワスポ』打ち合わせだったんだろ?」
「カップ麺食ったし」
「んだよ、しけてんなー」
「るさいよ、人気スター様とは違うんだ」
でもマジ、今夜はカンベンしてほしいかも、と心の中で良太は思う。
「まあま、おにぎりとかサンドイッチも買ってきたからよ、仕事、切り上げてお前の部屋、行こうぜ」
「俺の部屋ぁ?!」
小さな会社のせいか、或いは、集まってくるのがほとんど一癖もふた癖もある連中だからか、オフィス内ではタレントも社員もあまり分け隔てがない、というか自然と仕事仲間という方向へ流れていく。
何せ、ここではタレントも頭を使って企画の一つや二つひねり出さないことにはやっていけない。
コンセプトくらい自分で構築しろというのが会社の理念になりつつある。
小笠原などは次から次へとくるオファーを蹴り倒しても、自分がやりたいことを通したりする。
彼の場合、よほど前事務所社長の裏切りが堪えたのかもしれないが。
「へえ、思ったより広いじゃん」
仕事を切り上げ、オフィスに施錠して成り行きで良太が小笠原を部屋に連れていくと、小笠原は物珍しそうに部屋を見回した。
「だから、人気スターの部屋といちいち比べんなって」
早速ナータンの品定めを受け、どうやら合格したらしい小笠原は、じゅうたんの上に鎮座している炬燵の前に胡坐をかいて座ると、擦り寄ってきたナータンを撫でている。
夏は炬燵掛けを取り払ってテーブルとして使っている。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
