工藤は、肩代わりした借金以外に、まだ父親が負っている借財のために、良太が毎月給料から半分以上送金していることも知っている。
借金といっても、人のいい父親が友人の保証人になり、結局その友人は逃げて行方知れずになったために背負う羽目になったものだ。
経営していたちっぽけな修理工場や家も巻き上げられ、両親は近県の温泉宿で住み込みで働いている。
その事情もわかっている工藤に、手心を加えているのならやめて欲しいと、きっぱり言ったこともある。
「お前、俺の会社を見くびるなよ」
逆に睨まれた良太はすごすご引き下がるしかなかった。
だが、何かと迷惑をかけている上、工藤は今まで良太のために、オーダーメイドのスーツから靴から、あらゆるものを散財している。
「この会社を名乗るのなら、身だしなみをきっちりしろ」
という工藤の仰せもあり、それは確かだと思うのだが。
「隣、工藤が使ってるんだろ? あいつ、高輪にすんげー億ション持ってるんじゃなかったか? 少しは社員に分け与えてもいいと思うぜ」
小笠原はまだ部屋のことが気になるようだ。
「お前だってすんげえ部屋あるくせに」
「な、な、隣って間取り、ここと同じ? 広いのか? 天井高いよな」
身を乗り出すようにして小笠原は聞いてくる。
「広さは倍くらいかなあ。事務所に近いところに身体休める部屋あったほうが、便利だからな」
コクリと冷たい液体を飲み込み、掃除くらいしとくかな~、などと、良太は隣の部屋のようすを思い浮かべた。
掃除などは契約している警備会社系列の清掃会社がオフィスも含めて工藤の部屋も週一入るので、特別汚れたりしない限り、きれいなものなのだが。
「ふうん」
小笠原はちらりと良太をみてから言った。
「案外、女、連れ込むための部屋なんじゃねーの? だろ?」
覗き込むように言われて、良太はかあっと酔いが一気に回るような気がした。
「し…知るかよ、そんな……」
しどろもどろになりながらも、工藤のことだ、きっと昔からそういう目的に使ったに違いないことは断定してもいい、と良太は思う。
「あいつさ、当然、ヨーロッパとか、アメリカとか、あちこちに女いるよな? あれだけの男だもんな~」
工藤ほどではないが、小笠原も酒が入ると煙草の本数が多くなるらしい。
「ゆっとくけど、ほんとは禁煙だからな。それ一本吸ったら終わり」
小笠原はニヤニヤしながら、ふーっと煙を吐き出した。
「わーかったよ。こないだもアメリカからきてたって女、かなりいい女だったって?」
そりゃあ、やっぱり、いるんだろうか、女も。
グチグチするのなんかキャラじゃないとよく言われるが、工藤のことに限って言えば、誰かのそんな言葉で、すぐ心が揺らいでしまう。
イタリアにもいたし。
佳乃さんも親密には親密だが、なんだかだで古い幼馴染だったみたいだが。
昔、工藤の家の隣に住んでいたという佳乃さんのことでよくわかったのは、俺の知らない女がいろいろいたって不思議じゃないってことだ。
俺って、女じゃなくても、そん中の一人なんだろう、きっと。
信じるとか信じないとかそんな次元の問題じゃない。
俺が千雪さんや佳乃さんのこと妬いたからって、工藤なんかにはへでもないんだ。
俺ひとりでわめいてるだけでさ。
ついついひがみ根性が良太の中で顔を出す。
工藤には、俺の知らないことわんさかあるしさ。
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