二人が三島家の門をくぐり、車を停めると、玄関を開けて寛斗が「来た来た」と言いながら出てきた。
すると寛斗の後ろから、母親の果歩が現れて笑みを浮かべながら頭を下げた。
「土曜日はほんとにありがとうございました。ほんとに感動しました、ほんとに」
リビングに通されると、斜め向いに座った果歩に礼を言われ、「いえ、こちらこそ、立派な舞台を提供していただいたお陰で追いコンも大成功、感謝しております」と卒なく返したのは井原だ。
隣に座る響はついでに頭を下げた。
「うちの寛斗がいつもお世話になってるのに、当然です。聞きましたら、響先生、何回も寛斗のレッスンしてくださったんですって? しかもレッスン料もお支払いしてないとか」
「ああ、いえ、あれは音楽部の延長で、コンクールのためですから、気になさらないでください」
「とんでもない、改めてお礼をさせていただきますわ」
響の説明にも果歩は恐縮して頭を下げる。
そこへ、寛斗がトレーにお茶と和菓子を乗せて現れ、二人の前にそれぞれ置くと、果歩や瀬戸川、自分用にと置いて座った。
いい香りの緑茶に涼やかな葛の透明感がある和菓子が並ぶ。
「『大八賀堂』さんの今年の新作ですって。どうぞお召し上がりくださいな」
いただきますもそこそこに、パクっと菓子を食べた井原は、「美味い! あんこもくどくなくて!」とすかさず食レポする。
「『大八賀堂』って、古い和菓子屋ですよね?」
「ええ、亡くなった母が『大八賀堂』の先代に懇意にしていただいて」
『大八賀堂』は何代か続く街でも老舗の和菓子屋だ。
ただ、SNSや口コミなどで最近できた見栄えのよい菓子を売る菓子店に押され気味なのだと、食事を作ってくれる下出さんが言っていたのを響は聞いたことがある。
テーブルをコの字型に囲むソファに井原と響、向井に寛斗と瀬戸川、奥に果歩が座っているが、寛斗と瀬戸川は珍しく静かだ。
「美晴さんともよくここに座っておしゃべりしたんですよ。『大八賀堂』さんの和菓子がやっぱりお好きで」
唐突に『大八賀堂』続きで美晴の名前が出て、響は思わず手を止める。
「美晴さんがニューヨークに行かれてからも、ビデオ通話なんかで時々お話してたんですけど、が勝手に家を出たんだから、響さんには何も言わないでほしいって」
「勝手に家を出たって、祖母と父親が追い出したんじゃないですか」
するりと響の口からそんな言葉が零れる。
「確かに、お義母様とは折り合いが悪かったみたいだけど、音楽をやりたいってずっと思ってたのは自分だからって、美晴さん」
果歩は響を見た。
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