「そういや、何? 井原くんがボーカルで『声をあげろ』やったの?」
さすがにみっちゃん、と元気も言いたくなるほど、細部まで話を聞き流すようなことはしない。
「ああ、追いコンで、見ます?」
そして井原はきっちり撮ってもらった動画を携帯に入れている。
「ええ、これ、めちゃいいじゃん、井原くん、バンドやってんの? 音楽部長だったって?」
「お、本家に褒められた。向こうでジャズやってたんで」
「なるほどお! 声量あるしプロ?」
みっちゃんの質問には元気が答えた。
「こいつはイエール大の物理学者」
「え? 学者先生が何でこの街に戻ってきたの?」
みっちゃんが興味津々で井原に問う。
「まあ、いろいろ事情がありまして」
すると元気は、フン、っと鼻で笑う。
「そうだ、いいこと思いついた」
みっちゃんが嬉々として言った。
元気は胡散臭げにみっちゃんを見た。
みっちゃんのいいことなんて、ろくなものではないことをよく知っているからだ。
「井原くんと一緒にGENKIにサプライズ出演ってのどうよ?」
「アホか」
元気は即座に却下した。
「何でだよ、一平とは違う伸びのあるボーカルでさ。浅野がさ、元気のために、あらゆるマスク取り寄せて悦に入ってるんだぜ?」
どんな手段を使ってでも元気をライブに出したいみっちゃんの本音が、段々露わになってくる。
「何しろ、うちのバンド、ぱっと見があまりに地味なんだよな」
はあ、とみっちゃんはため息をついて見せる。
「は? どこが地味?」
井原が聞き返す。
「だって男男して、もさいでしょうが。一平がかろうじてイケメンってビジュアルを保ってるにしても、やっぱ男臭くてさ」
「メタルが男臭くて何が悪い」
元気が口を挟む。
「お前、今時の若者は化粧もするんだぞ? やっぱ汗臭いよりきれいな方がいいに決まってる。その点、去年サプライズの元気がまたばえるのなんのって、テレビ映りも……」
「いい加減にしろ。一回だけだぞ」
みっちゃんの話をぶった切って元気が言った。
「よし! 浅野に、軽くて通気性がよくてばえるマスクを用意させとく!」
みっちゃんは拳を握って頷いた。
元気に何とかライブの出演を承諾させたみっちゃんは、お先に、と帰っていった。
「彼、元気をライブに出させるためにわざわざやってくるわけか」
あらためて井原が言った。
「あんななりして、中身はバリバリの実業家だ」
元気が面白くもなさそうに言う。
「なるほどね。だけどさ、まあ、いろいろあったかもだけど、もう、いいんじゃね? たまにGENKIとセッションするくらい。第一、曲とか作ってるんだろ?」
元気は井原をちょっと睨む。
「なんだよ、その、いろいろあったかもって」
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