「そりゃまあ、紀ちゃんとかにさ」
どうせ紀子に余計なことまで聞いたのだろう。
その紀子は、今日は家の法事で休みだ。
助かった。
紀子がいたら、また向井さんのこととかあれやこれや想像をたくましくして喋りまくるに違いない。
「おい、向井さんのことは、紀ちゃんに言うなよ」
「ええ?」
ちょっと井原の目に宿る怪しい輝きが曲者だ。
「お前は響さんのことを考えてやれよ。母親のこともだが父親にバレたとか難題山積みだろうが」
「そんなことはもちろん、わかってるさ」
ここにきて降って湧いたように響には今後の動向を左右するようなことを突きつけられた。
母親のことは、いずれどこかで会って話をするくらいはできるだろうが、父親とは出て行く行かないの話となれば、住まいとしてもだが、ピアノを置けるような物件を探さなくてはならない。
差し当って井原が自分の部屋に響を住まわせるのは、むしろ大歓迎なのだが、いや、リビングに置こうと思えばグランドピアノを置くこともできなくもないのだ、実際口にはしないが、今の部屋を決めた大きな理由は、響と同居もできる広さだということだ。
だが、実際生徒をレッスンに来させるとなると、なぜ響が井原の家にいるのかという話になるわけだ。
人の口に戸はたてられない。
小さい町のことだ、特に学校で噂はすぐに広まるだろう。
井原はそんなことは頓着しないが、響は違うだろう。
「もし仮に、響さんが家を出ることになったら、とにかくレッスンができる環境を探さないとな。響さんはお前んちに行くとしても、お前んちでレッスンってわけにはいかないだろうし」
井原が考えていたようなことを。元気が言った。
「そうなんだよな。なかなかグランドピアノを二台おけるような物件なんてそうそう見つからない」
井原もうーんと言いつつ頷いた。
「仮になら…………」
言いかけた元気を井原は振り仰ぐ。
「どっか心当たりがあるのか?」
「いや、広さだけなら、元々が農家で周りは畑やちょっとした林だし………」
「それメチャいいじゃん、どこだよ、それ?」
「いや………住人にも聞いてみないとだし」
元気は口にするのを躊躇った。
「住人がいるのか」
井原はがっくりと項垂れる。
「豪の家だよ」
「は?」
井原はまた顔を上げた。
「あいつ、たまに帰ってはくるけど、農家を買ってリノベしたんだが、使ってない部屋がいくつもあるし、リビングはとにかくだだっ広いぞ。隣まで距離あるし」
元気の説明を聞くと、「くそ、人気フォトグラファーの別宅かよ、贅沢もん」と井原は悔しそうに言った。
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