花のふる日は1

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       ACT 1
   
 
 テレビをつけると、ニュース番組では桜の開花予想をやっていた。
「日本人は桜、好きやな」
 大学近くの喫茶店で編集者との打ち合わせを済ませ、夜九時過ぎに部屋に戻ってきた小林千雪は、キッチンのテーブルの上にコンビニで買ってきた弁当を広げながらポツリと呟いた。
 京助の作る食事に慣れてしまったせいで以前はとても食べられなかったコンビニ弁当も、最近は千雪でも何とか食べられるシロモノが出てきたので、今日のように腹が減ってとてもどこかに出向く気力もない時には仕方なく口にすることもある。
 あらかた食べ終わると、千雪はぼんやりとテレビの画面に目をやった。
 仕事に追われて二十四時間でも足りないような日々を過ごしている時はその存在すら忘れてしまうこともあるテレビだが、たまにこんな、仕事も一段落、いつもはうるさくつきまとう京助もいないような夜は、何を見るともなくテレビをつけている。
 四年前、東京に出てきてしばらくは、物珍しさや探究心であちこち出掛けたりして忘れていたが、父親にも研二にも、一人でやっていける、などと宣言したものの、ふと一人でいることが恐ろしく寂しいことに気づいた。
 そこで初めて自分がひどく寂しがりやで、今まで父親や研二はもちろん、たくさんの友達や近所の人に囲まれていたからこそやってこられたのだと、千雪はあらためて悟った。
 確かに、ボサボサ頭に黒渕メガネ、よれよれのジャージというようないでたちのお陰で、本来は稀有なまでの美貌が祟ってか中学高校と女の子に追い回されたり、いや、男にまで妙な目つきで見られたり、後をつけられたりという、おそらく研二がいてくれたからこそそれでも何割減だったかもなのだが、金輪際もうゴメンな状況は免れた。
 だがその代わり、今度は人が寄り付かない。
 外見というのがそれほども人間関係を左右するものだと痛感した。
 ともあれ、気づいたらそういう状態で、その頃千雪の周りには誰もいなかった。
 東京に出てきた同級生も何人かいたはずだが、みんな新しい生活を満喫するのに忙しいのか、誰も、高校の時は何のかのと声をかけてきたあのウザい三田村さえ、うんともすんともいってこない。
「ほんま、みんな薄情なヤツや」
 テレビでは桜の開花予想から、今度は今の政権批判へと話題が変わっていた。
 友達ひとりできなくて寂しいなんて、自分から連絡を取るのも何やらシャクな気がしたし、ちょっと一人に耐えられなくて、研二に電話をしたこともあったがそっけなく切られたしで、何を見るともなくテレビをつけるようになったのはあの頃からだ。
 一人暮らしをすると断固として宣言した手前、今更、原の伯父や従姉に泣きつくわけにもいかないし、このコスプレをやめたら今度はまた妙なやつにつけまわされたりするかもしれない。
 自意識過剰といわれようと、女の子に家まで押しかけてこられたり、門の前で待ち伏せされたり、ぎらついた目を隠そうともしない男に襲われかけたりなんていうキモい体験をするよりはちょっと寂しいくらい我慢することを選んだ。
 間もなく、そんな寂しがりやな千雪の前に現れたのが綾小路京助だ。
 あとで知ったのだが、昔、千雪の父親である小林和巳に心酔し、K大にいたことがあったという京助はよく小林家を訪ねていたらしい。
 千雪は父親の研究室の人間ともあまり接触しないようにしていたので、直接その頃は顔を合わせたことはなかったのだが。

 


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