花のふる日は2

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 アメリカにいた母親が病床に伏したことが理由で京助はボストンに行ってしまったから、千雪の父との交流は一年にも満たなかったようだが、その後京助の母親は亡くなり、今度は日本にいる父親が身体を壊し、研究者の道を諦めて実家が創業した企業に入って東奔西走する兄に、心労で義母までが病床につくことを心配して実家に戻るように頼まれ、京助は結局東京の大学を選ばざるを得なかった。
 京助からそういった報告を受けていた千雪の父は、たまたま千雪が同じ大学に行くことになったというだけで、見かけたら声をかけてやってほしいなどと京助への手紙に書いたのだという。
 意外と義理堅い京助は、手紙にあった名前だけを頼りに千雪を見つけ、千雪が推理小説研究会に入ったと知ると、自分も入会し、それから千雪にあれこれと世話を焼き始めた。
 以来、強引で俺様な性格ではあったものの、千雪は結局、世話焼きな上に料理もかなりな腕前の京助に寄りかかってしまった。
 その時は、まさか京助と友人以上の関係になるなどとは想像もしていなかったのだが、ずるずるとなし崩し的に半同棲のような形で、今に至っている。
 千雪は腹が空いていたお陰で、コンビニの自己主張が強いばかりの弁当を全部平らげ、湯が沸いたので急須にお茶をいれてマグカップに注いだ。
 椅子に座りなおしてお茶を飲みながら、千雪は弁当と一緒に買ってきた雑誌を開いた。
 仕事の資料意外、雑誌など、特に写真週刊誌などは滅多に手に取ることもないのだが、つい一緒に買ってしまったその表紙には、『超セレブ綾小路京助氏、華道家元令嬢の次はスーパーモデルとお泊り愛』などというキャッチコピーが踊っている。
 今朝方、たまたま研究室にいた千雪を見つけて、わざわざ後輩の佐久間がネットの記事をみせたりしなければ知らなかったのだが。
「全く、やってくれはるわ、京助先輩。今、何とかコレクションで、日本に来日しているモデルのカレン・ロイド、ほら、この超美女。何でも京助先輩、アメリカ留学時代に知り合ったみたいでっせ。あ、これ、出版社の彼女から聞いたから、信憑性高いですわ」
 夜、カレンが滞在しているホテルに彼女をエスコートして入っていく二人と、朝、ホテルを出る京助の写真が載っている。
 ネットよりも何故か生々し気に思われる。
 おそらく先週末のことだろう。
 京助も千雪と一緒に警視庁への事件協力とかで話題に上らなければ、ここまで派手に取り沙汰されることもなかったかもしれない。
 なまじっか、見てくれの優劣が激しいコンビだとういうので、余計に京助のイケメンぶりが強調され、果てはその出自が財界のトップクラスに名を連ねる東洋グループ総帥の息子で、由緒ある家柄等々まであからさまに取り上げられ、タレントも顔負けな扱いだ。
 その京助は昨日から教授のお供で学会に出席するため、大阪にいる。
 部屋に戻ってすぐ家電の留守電ボタンがチカチカしているのに気づいたが、千雪は用件を聞くこともなく消去し、電話のケーブルを外した。
 誰からかはわかっている。
 もちろんネットを見てすぐ、携帯の電源も切ってしまっていた。
「いい加減、潮時いうこっちゃな」
 千雪はひとり呟いた。

 


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