花のふる日は13

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 部屋を出るとき、平造が空調の温度をかなり上げていったが、やはりこの辺りはまだ真冬の寒さだ。
 部屋が広いだけ、温まるのも遅い。
 桜を見るのが嫌でここにきたはいいが、いくら酔っていたとはいえ、こんなところまで拾った男を連れてきたことを工藤は少し後悔した。
 モデルか何かだとしても社会人には見えない、おそらく学生あたりだろうとふんだが、もし仕事を持っていたりしてもあんな飲み方をする方が悪い。
 工藤は、バーで男とわかった時の自分の間抜け面を想像して苦笑いした。
 まあ、あの綾小路と別れて自棄になっていたってなところか。
 どこで拾ったか知らないが、てことは、堅気じゃない…? にしても擦れていなさそうだが…
 公衆の面前で二人の修羅場を目の当たりにしたことを工藤は思い出す。
 綾小路が強引にキスしていたようだし、どう考えてもあれは修羅場だった。
 あのタラシをあそこまでいれこませるとは、大したタマだ。
 ああ、男だったな……。
 それにしてもきれいな男だと工藤は寝顔を見つめる。
 酒なんか飲んでいたが、もしかして高校生とか?
 バーで会った時は相当怒っていたようすで怜悧な感じがしたのだが、こうして眠っている顔はむしろあどけなく、穢れの似合わない気高さすら窺える。
 この清冽な美貌の主を綾小路京助が喰らうのかと、ふと思ったとき、工藤は妙にイラついた。
 そのイラつきがまた自分でウザったくて仕方ない工藤は、服を脱ぎ捨ててバスルームのドアを乱暴に開けると、頭からシャワーを浴びた。
 バスローブを羽織り、タオルで頭をガシガシ拭いながら工藤がバスルームから出てきた時、千雪がフラリとベッドから起き上がった。
「おい、どうした?」
「……気持ちわる……トイレ……」
「しょうがねぇな、こっちだ」
 怒りに任せて飲んだせいで悪酔いしたらしいと、工藤に支えられるようにして千雪はフラフラとバスルームのドアを開けた。
「大丈夫か?」
 声をかけた工藤には答えもせず、千雪はドアを閉めた。
 漠然とそこがどこだろうなどと思うのだが、気持ち悪さにそんなことはどこかに飛んでしまう。
 あらかた吐いたので吐き気はなくなったが、口をゆすぎ、ついでにトイレを済ませるくらいは、何とか酔った頭でもわかっていたつもりだった。
 だがもう一度口をゆすいでうがいをし、顔を洗った時、セーターやらジーンズやらが濡れてしまった。
 近くにあったタオルで拭いたつもりだったのだが、酔っているせいで判断力が乏しく、まだ濡れたままでバスルームを出る。
「おい…」
 グラスを片手に銜えた煙草を噛みながら、翌日のスケジュールの確認をしていた工藤は、千雪がまたフラフラとベッドに戻って倒れこむのを見て、眉をひそめた。
「やっぱガキか……」
 このようすでは玄人ではあるまい。
 大方、京助を振ったはいいが、半分は気持ちを残して慣れない自棄酒を呷ったってとこか。
 グラスを空にして煙草を灰皿にもみ消すと、ベッドに倒れこんだ千雪に近づいた工藤は、セーターが濡れているのに気づいた。
 手荒くセーターを脱がせ、ジーンズも剥ぎ取ってから毛布をかぶせたが、無防備に眠っている千雪は起きる気配はない。
「…フン、あの男でさえ魅入られたってのもわからないではないな」
 呟きながら工藤はまたわけのわからないイラつきに、もう一杯グラスに注いだ酒を飲み干した。

 


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