「ほう? 別荘ね。どんなしのぎで手に入れたのやらな」
もっとキモいのはこのおっさんや! 何様や思うとんのや!
千雪はまた心の中で毒づいた。
工藤のエロやろうの肩持つわけやないけど、このアンコウオヤジはすかん!
「西岡さん、別荘は工藤さんが曽祖父から譲り受けられたものですよ」
千雪の怒りが伝わったかのように、渋谷がとりなした。
「ほう?」
それでも西岡はバカにしたように鼻で笑う。
「ご期待に添えなくて申し訳ないが、いくら調べてもらっても、何とか組と関わったことは一度もありませんよ。ところで………」
工藤は千雪の方を向いた。
「さっき、大学の宮島教授から小林先生が連行されたと聞いてかけつけたんですが、確かに小林先生と一緒だったのは事実なんだが………」
今度は何を言い出すんだと、千雪は工藤を訝しげに見やる。
「私がご一緒した小林先生とここにおられる小林先生は別人のような気がしますが……」
工藤はニヤリと笑った。
「何を言ってるんですか? 小林先生は小林先生でしょう?」
いきりたったように工藤に詰め寄ったのは、渋谷だった。
「どっちがホンモノなのか、はっきりさせた方がいいんじゃないですか? 小林先生」
工藤の言うのももっともだった。
警察がこれ以上架空の人物像に関わっていたところで、事件は一向に解決しないのは事実だ。
この石頭のアンコウ警部がどうしてここまで千雪に固執するのか、千雪自身不思議なくらいだ。
きっと刑事のカンとかで思い込み捜査で猪突猛進するタイプなのだ。
そんなことを考えながらも、仕方なく、千雪はメガネを取り、髪をかきあげた。
「お世話になりました。工藤さん」
礼を言いながらも、千雪は工藤をジロリと見上げた。
「ああ、なるほど、この人なら確かに、うちの別荘で書き物してましたよ。うちの平造も一緒にいましたからね。何なら、呼び寄せましょうか? ま、ムショ帰りの人間の言うことでも信用してくれればですが」
二人の刑事は、黒渕メガネを外し髪型を変えただけで別人のようになった千雪の顔をまじまじと見つめた。
「最初の事件のあったその時間なら、工藤さんの車に乗せてもろてた頃やし、Nシステム調べればわかるんやないですか」
渋谷はおかしな展開にちょっと呆気にとられているようすだった。
「何で最初からそれを言わないんだ!」
立ち上がった西岡は顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
「東京にはいませんでした、原稿書くためにあるところにいました、一昨日も夕べもて、俺、言いましたよね? 信じなかったんはそっちやないですか」
拳を握り締め唇を噛んでいる西岡に、千雪はきっぱり言い放つ。
「評判になっている小林千雪って実はどこにも存在しないし、こんなの誰でもコスプレできるやないですか。近くのスーパーでなるべくダッサーなジャージやスニーカー買うてきたらええんですし」
「何だって、どうして君は何でそんなややこしい真似をしてるんだ!」
ようやく渋谷は怒ったように千雪に詰め寄った。
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