花のふる日は41

back  next  top  Novels


「あら、こんなとこで仏頂面を拝むなんて、満開の桜に恐れおののいて戻ってきたの? 高広」
 ワインは千雪が二杯飲んだだけであとは工藤が空け、ちょうど千雪はプリンにとりかかり、工藤がマイヤーズをやり始めた頃だ、いきなり千雪の背後からよく通る声が店内に響いた。
「何しにきたんだ、ホテルで優雅に羽を伸ばしてるんじゃなかったのか?」
 さっきまでちょっと面白そうに千雪をからかっていた目の前の工藤が、本当に仏頂面に変わる。
「いらっしゃいませ、山内様」
「やだ、他人行儀な、ひとみでいいのよ、せっかく軽井沢くんだりまできて、吉川くんの男前を見なきゃ、帰れないじゃないねぇ」
 山内ひとみ、というと有名な女優だろうか。
 千雪がチラリと見ると、すんなり美しいプロポーションを強調した白いエレガントなワンピースを纏った美女が立っている。
「ミックスピザとフルーツサラダ、それとキャンティお願い」
「田舎だからって人気女優がピザにがっつくなんざ、絵にならないぞ」
 斜め向かいのテーブルに陣取ったひとみに、工藤が言った。
「鬼プロデューサーこそ、こんなとこでこそこそ、どんな相手と密会かしら? って気になるじゃない」
 鋭い視線を感じてうっとプリンが喉につまりそうになって、顔を上げる。
「あら………」
 思わずしっかり目が合ってしまい、千雪はプリンをようやく飲み込んだ。
「高広にしちゃ、超ヒットなお相手じゃない? モデル? それとも女優?」
 じっと見つめられて千雪は言葉がない。
 相手が男なら、それこそ減らず口がいくらでも出てくるのだが。
「女優でもモデルでもない、今、込み入った話の途中だ」
 苦々しい顔で、工藤が言った。
「ええ? あたしにまで隠すことないじゃない? ふーん、なーに? とっておきの隠し玉ってとこ?」
「俺は業界とは関係ありません」
 顔を覗きこまれて、思わず千雪は口を開いた。
「お前は黙ってろ」
 すかさず工藤が頭ごなしに言いはなつ。
「うっそ、やだ、男の子???? 高広ったら、そういうこと? ふーん、そうねぇ、ちょっとこんなきれいな子、見たことないもの。わかったわ、お邪魔様!」
 ひとみは意味深な台詞を残すと、ふいっと自分のテーブルに戻る。
 今度は工藤と千雪のことは無視するように、料理を運んできた吉川と話しながら笑っている。
「出るぞ」
 ラム酒を飲み干すと、工藤はオーダーシートを持って立ち上がった。
「お帰りですか?」
 吉川が気づいてレジに立った。
「これ、平さんにさっき頼まれたので、お願いします。パウンドケーキです」
 紙袋を工藤に渡しながら、吉川が言った。
「いつもすまないな」
「こちらこそ、いつもありがとうございます」
 丁寧に吉川に見送られて二人は店を出た。
「山内さん、妙に俺のこと勘繰ってはった」
 店を出ると千雪は言った。
「ほっとけ。信用はおける女だ」
「そやのうて、いや、納得して勘繰るってのもどうかと思うけど、変な勘違いされてもええんか? 彼女に?」
 すると工藤はふっと笑う。
「去年、三カ月つき合っただけだ」
「そら、ゴーカン魔なんか振られるわな」
「フン、勝手に言ってろ。それより、まだ小林千雪はネクラのダサいイメージでいたいんだろ」
 だから彼女に紹介しなかったのか。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます