ACT 8
乃木坂に瀟洒な自社ビルを構える青山プロダクション。
敏腕プロデューサーとして業界に名を馳せた工藤高広がこの会社を興して二年程になる。
テレビ番組、映画の制作、広告企画宣伝などなどがその業務内容であるが、つい数カ月前、山内ひとみが女優の小野万里子をこの事務所で何とかして、と連れてきてくれたお陰で、タレントの育成及びそのマネージメントなどという業務まで渋々つけ加えることになってしまった。
ただし、業績は徐々に伸びているものの、会社は出航当初から人手不足に悩まされている。
原因は広域暴力団の組長を伯父に持つという工藤のダークな生い立ちにあるのだが、組長も工藤側も互いに縁を切っており、事実上一切関わりはないのである。
にもかかわらず、破格な給料を掲げた社員募集をかけて面接にやってくる者たちが一様に回れ右で帰っていくのは、工藤がひとこと、伯父は云々を告げるからである。
平造にも言っているように、後で知れて途中で辞められる方が面倒なのだ。
最近ようやく、工藤が留守の時に電話を取ってくれる上、経理も任せられるという有難い社員が入ってくれて、人気女優の小野万里子が事務員よろしく電話応対をする必要もなくなった。
さらに小野万里子がこの会社に移籍して以来、番組制作関連で動くのみならず、工藤が一人で背負い込んでいた彼女のマネジメントを任せられる人材も見つかったのである。
お陰で工藤は前にもましてオフィスに立ち寄る暇もないくらい日本中を縦横無尽に走り回ることとなった。
「よかったですわね、工藤さん。菊池さん、とても真面目でよい方で」
経理、電話応対、その他オフィスの雑多な作業までを引き受けてくれている鈴木さんが、久しぶりにオフィスに顔を見せた工藤にお茶を運んできた。
「ああ、ありがとう。あと一人くらい入ってくれれば、鈴木さんの仕事も少しは楽になるんだが。こんな時間まで残業させて申し訳ない」
時刻は既に八時を回ろうとしていた。
「今日はよろしいんですのよ。子どもたち、新学期が始まる明後日まで、田舎のおじいちゃんのところへ遊びに行ってくれてるし。私の方は十二分に工藤さんにはよくしていただいてますし、何より、使っていただけるだけでほんとに有難く思っているんですから」
少しふくよかな鈴木さんは、四十代後半だが、笑うとチャーミングな、物事の道理をわきまえた女性だ。
大学の同期で弁護士をしている小田の紹介でこの会社に来たのだが、夫のDVに悩まされた離婚訴訟に決着がつき、二人の子供を抱えて仕事が必要だった。
昨日入社した菊池も前の会社で不当なリストラに合い、小田を代理人に訴訟を起こして正当な退職金を支払わせることで解決をみたばかりだった。
三十代で子供もまだ小さい、この就職難の折、再就職が難航するのは目に見えており、小田から工藤の会社の話を持ちかけられた時は一もニもなく快諾した。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
