あたりの柔らかな小田の人柄もあっただろう。
その菊池がマネジメントをやることとなった女優小野万里子も実はまたわけありだった。
前に所属していた事務所の社長との不倫がマスコミに取り沙汰され、ボロボロになり、駆け込み寺のごとく以前一緒に仕事をしたことのある工藤を頼ったのだ。
その橋渡しをしたのが、彼女がデビューの頃からのつき合いだった山内ひとみである。
当初タレントを預かるつもりは毛頭なかった工藤だが、ひとみに強引に押し切られた形だ。
まだ鈴木さんもいない頃で、文字通り工藤は万里子のマネジメントまで背負って駆けずり回るはめになり、みかねた平造が電話対応にオフィスにつめていたこともある。
とにかく仕事の成果は順調に伸びているものの、今日も大事なスポンサーである日本を代表する自動車産業大手、藤田自動車の社長に延々三時間もランチにつき合わされ、以降のスケジュールを狂わされ、誰に怒りをぶちまけることもできずイラついていた。
工藤自身を気に入ってくれているのは有難いのだが、一人で何もかもをこなしている工藤にしてみると、迷惑この上ない。
しかも昨日は千雪を警察から救い出す正義の味方になぞなってしまい、おまけに軽井沢に行ったら契約を考えてもいいとか言い出した千雪に付き合って一日を棒に振った。
「全く! どいつもこいつも勝手なことぬかしやがって!」
つい今しがた鈴木さんが帰って一人きりになったオフィスで、工藤は思わず喚いた。
例の事件のことは昨日オフィスに戻ってきて、鈴木さんから聞いて初めて知ったのだ。
「容疑者っていうのが、こう、ぼさぼさの頭に黒渕メガネで、ヨレヨレのジャージ? もう私、気味が悪くて……早く捕まればいいんですけど」
その人相風体が気になった工藤は、大学の宮島教授に電話を入れてみたところ、千雪が連行されたという。
「いや、ここ数日小林くんはずっと軽井沢の私の別荘で原稿書いていたんですよ」
だったら早く警察に行ってそれを証明してやってくれと宮島教授にも言われ、無論、自分でも取るものとりあえず警察に向かったのだ。
「ったく、あのガキに振り回されているな、ここんとこ」
工藤は我と我が身を嘲笑う。
魅入られたか。
容姿だけではない、結構我侭なくせに何か面白い。
あんなのが傍にいたら、あのイケメンのタラシが我を忘れるのも無理はないか。
まあ、あれで諦めるのなら、どうせ苦労知らずの御曹司だし、その程度の話、その程度のヤツってことだ。
「まあ、その方が、あの男にとってもラクな人生、順風満帆に行くだろうさ」
霞ヶ関で一人置いてきぼりをくらった男がバックミラーに映っていたのを思い出して、工藤は呟いた。
「あ、お帰りなさい、工藤さん。先ほどからお客様がお待ちになってらっしゃいます」
翌日も午後七時を過ぎてオフィスに戻った工藤を、鈴木さんが出迎えて言った。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
