花のふる日は66

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   ACT 11
   
 
 遠くで何か音がしていた。
 何だろうと漠然と思いつつ、一度は無視する。
 だがその音は次第に不快なものとなり、ついに千雪は目を覚まし、その音の原因が机の上でコール音とともに自身が微妙に振動するために机にぶつかり、さらに不快な音を醸し出している携帯だということに気づかされた。
 ムクリと起き上がり、半分まだ死んでいる脳をそのままに、仕方なくしつこい音のハーモニーを止めた。
「……はい…」
 目を閉じたまま、かろうじてそれだけ口にした。
「今、どこだ? 午後にでも乃木坂に来られるか?」
「え……と、どちらさん?」
「工藤だ。いい加減目を覚ませ! すぐに昼だぞ」
 思わず携帯を耳から離す。
「今日は確か日曜や思いますけど」
「だからどうした? 映画のキャスティング、確認してもらわねばならない」
 この人、基本的にワーカホリックな日本のオヤジなんや。
 ぼんやり、そんなことを考える。
「えーと、午後いうても、正午から午前零時までありますが………」
「だから、さっさと時間を決めろ!」
 怒鳴り声にまた携帯を離す。
「えーーと、ほな、夕方五時あたりで……」
「五時だな? わかった」
 途端、ブチッと切れる。
 千雪は思わずふううと大きく溜息をつく。
 少しずつ頭も起きだしてきて、フラフラとキッチンに行くと、テーブルの上にサンドイッチが置いてある。
 もちろん、手作りのそれは、京助の特製だ。
 ラップを外して一つつまんだのだが、よく噛まずに飲み込んだために喉につかえそうになり、慌てて冷蔵庫から牛乳を出してカップに注いで飲んだ。
 東京に戻ってきたのは昨夜の九時頃だったか。
 そもそもが昨日二日酔いで、起きだしたのが昼過ぎ。
 桐島さんも菊ちゃんも、酒、強いんやからな……
 途中で寝てしまったから、みんなが帰っていったのも知らなかった。
 なかなか頭痛が治らず、後片付けから何から、全部京助がやってくれたのだ。
 ようやく京助に伴われてあたふたと両親の墓参りを済ませ、河原町に出て食事をして新幹線に乗った。
 だが、乗っている間の記憶もない。
 京助に起こされるまでぐっすり寝ていたのだ。
 タクシーでアパートに戻り、まだぐたぐたしている千雪を放って、京助が買出しをしてきてくれて、リゾットを作ってもらい、食べ終わった頃、段々頭が正常に戻ってきた。
 コーヒーを入れてもらい、ほっと一息ついた千雪は、小さなキッチンに置いたテーブルの向かいで、難しい顔をして新聞に眼を通す京助を見た。
 帰ってきてもほとんど会話もない。
 だが、そんな状況に何やら安堵する。
 って、まるで長年連れ添った夫婦やんか。
 しかも何もかもやってもらっているのは千雪の方。
 マメなのだ。
 京都でもあの大人数の飲み会を、井原と二人で取り仕切り、というよりもまず、寿司やピザの類を覗いて、料理は二人で作っていたのだ。

 


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