花のふる日は69(ラスト)

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「この子のせい? この子が今の恋人なのね!! そうなのね?!」
 えええええええっと、あまりに唐突過ぎて、千雪は心の中でしか声にならない。
 何で、そうなるねん! 何や、この女!
「そうだ。お前にはもう会うつもりはない。とっとと帰れ!」
 千雪は今度は工藤を振り返る。
 何、言い出すんや、このオッサンは!
「何でよ! ちょっときれいだからって、こんな子の何がいいのよ! こんな顔してベッドの中でそんなにいいわけ?」
 おいおい、黙って聞いたったら、この女……!
 何か言おうとした矢先、また勢いよくドアが開いた。
「芽久! 何をやってるんだ! こんなところで!」
 コートを翻しながら入ってきた中年の男。
「とっとと、連れて行ってくれ、今西。仕事の邪魔だ」
「いやよ、高広! いや!」
 またボロボロと涙をこぼしながら、しかし今度は今西という男にしっかり腕を取られ、美人は台風のようにいきなり来てまた騒々しくオフィスを出て行った。
「山之辺芽久さんでしょ? モデルの。よろしかったんですか? 工藤さん、可哀想にあんなに泣いて……」
 キッチンに戻りながら、鈴木さんがボソリと言った。
「ここで甘い顔をしても彼女のためになりませんからね」
「そうですの……、大変なんですね、業界って」
「何が、彼女のためや」
 ソファに座り直してプリンにスプーンを入れながら、千雪は工藤を睨みつける。
「女と切れるのに人をダシにつかいよって!」
「さあ、勝手にあの女がお前を勘違いしてくれたからな。いや、案外、勘違いでもないのかな?」
「それ以上言うたら、映画降りるからな」
 工藤はフッと笑う。
「ジョークを鵜呑みにするなよ」
 バタン!
 ドアが荒々しく開いて、また彼女が戻ってきたかと思いきや、入ってきたのは京助だった。
「今度はお前か。千客万来だな、今日は」
 京助の顔を見るなり、工藤はニヤニヤと笑う。
「千雪、お前、何してるんだ? こんなとこで!」
「何て、さっき電話で言うたやろ? 映画化のキャスティング確認せい、てことやから」
 プリンを食べながらのんびり返す千雪の言葉に、京助は舌打ちする。
「狭量な男だな? そんなに千雪が心配なら、千雪に四六時中べったり張り付いていればいいだろ?」
「できるもんならそうしてる!」
 工藤のからかいに、余裕もなく京助はまともに言い返す。
「いらっしゃい。もう、お風邪はよろしいんですの? こちらへどうぞ。このプリン、いただきものですけど、美味しゅうございますのよ」
 また紅茶とプリンを載せたトレーを手にゆったりと現れた鈴木さんが、きりきり苛立つばかりの京助を大テーブルへと招く。
「おかまいなく」
 柔らかな鈴木さんの笑顔には苛立ちをぶつけようもなく、仕方なく、京助はソファに腰を降ろす。
「まだ、終わらないのか?」
「終わった。このお茶美味しいわ。プリンも美味いで? そんな顔してんと、京助も食べたらええやん」
 仏頂面の京助を前に、千雪は暢気そうに紅茶を飲む。
「平造さんの桜、今年はまだ少ないけれど可愛い花を咲かせてましたわ。先週なんて、花びらが舞ってきれいでしたのよ」
 工藤の前にも新しく入れた紅茶を置くと、鈴木さんは窓から見える裏庭に目をやりながらしみじみと言った。
「いつの間にか、桜の季節も過ぎちゃいましたわねぇ」
 庭園灯に浮かび上がる桜の木は既に青々と葉をつけて、凛として立っている。
 夜の天空にはぽっかりと浮いた黄色い月が、人間たちの喧騒や思惑など関係はないとばかりに、涼しげな顔で見下ろしていた。

 


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