今の良太にとっては一つでも懸念材料が減ってくれることが何よりありがたかった。
それでなくてもいつのまにか厄介ごとが良太の周りで増殖している気がする。
下柳は二時前にはあたふたと帰っていったが、今日は厄介ごとの一つを減らすべく、良太は脚本家の坂口宅に向かうことになっている。
出社してすぐ坂口と連絡を取ったところ、午後三時くらいに来てくれと言われたのだ。
人気俳優宇都宮俊治主演のドラマ「田園」でまた一人キャスティングの変更があるというのだが、まだ詳しいことは聞いていない。
「電話で話せないようなメンドイ話なのかな………何か実は問題ありの人いるのか?」
最近、芸能人の家族が不祥事を起こして、実力派の俳優が休業に追い込まれるというもったいない事態が続いている。
抱えている俳優の人数が少ない青山プロダクションならプライベートでも何か抱えているような様子があればすぐに知れるに違いないが。
何せ、社長が社長だからそれ以上マスコミに目を付けられるようなことは今のところはないはずだ。
移籍当初は所かまわず誰彼かまわずの遊び人で、良太を車で待たせて編集者とちゃっかりホテルなんてこともやらかした小笠原も、最近はえらく仕事に身を入れるようになり、レギュラーで出演している大河ドラマの幕末藩士ぶりが好評だ。
いずれにせよ、青山プロダクションに限っては、何かあったらこっちから聞かなくてもオフィスでぶちまけるような面々ばかりで、いや、和気あいあいと本音を言いあえるアットホームなオフィスなので、良太もそう心配はしていない。
「一体今度は誰だよ」
良太はドラマの登場人物を思い浮かべて思わずため息を漏らす。
原作は良太も再度読んだので、大体のキャストは把握しているつもりだが、坂口がつけくわえた原作にない役も数人ある。
「奥さん役のひとみさんはOK取ったし、アスカさんや奈々ちゃんも問題ないはず」
すぐにどうにかなるような手駒は今の良太にはもうないのだ。
「医学部の後輩役はスポンサー一押しのアイドル日下部正輝だし、まさか脇の大物さんだったらどうしよう」
あれこれと余計な心配でしばし頭を一杯にした良太は、気分転換を図るべくコーヒーをいれに立った。
坂口が仕事部屋にしているマンションを訪れた良太に、妙に機嫌よさげにコーヒーをいれてくれた坂口は、昨今の世情が侘しい、テレビ離れが進むのは若い奴らの心が殺伐としているからだなどと三十分ほど持論を吐きまくってなかなか本題に入ってくれなかった。
それでも良太が少しイラついているのに今更ながらに気づいたかのように、坂口は目の前に横たわっている難題についてようやく切り出した。
「は? 日下部が降りるって、だってスポンサーの一押し……」
「それがな、つい昨日になって、日下部の事務所から降板の申し出があってよ。手ぇ回して調べたら、日下部と竹野紗英、こっそりつき合ってたってさ。んで、またこれが竹野に手ひどく振られたみてぇで、事務所も日下部のようすがおかしいってんで問いただしたら日下部が吐いたと。事務所側は売り出し中の爽やかイケメンが手籠めにされたみたく怒りまくりだったらしいぜ」
「はあ………」
良太にはそれしか言葉が出てこなかった。
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