「ああ、いや昼飯も食ってきた。牛丼の大盛り。しばらく米の飯も食えなくなるからな」
そう言いながら、下柳は鈴木さんが出したらしい皿の大福をほおばり、茶をすする。
「ま、俺のことはほっといてゆっくり飯食いなよ」
下柳は湯飲みを持ったまま窓の外に目をやった。
「すっかり春だなあ。そうそう、春といやあ………」
鈴木さんと向かい合って良太は弁当を広げたが、言葉を切って何やらにやついている下柳を見やる。
「春がどうかしましたか?」
「いやなに、あちらこちらに春もきたってやつ」
「はあ?」
下柳が残った大福に取り掛かったので、良太も弁当に集中した。
「や、すまないね~、やっぱ鈴木さんの入れるお茶は天下一品」
良太と一緒に弁当を食べ終えた鈴木さんが入れ替えたお茶を下柳の湯飲みに注ぐと、鈴木さんは「おだててももう何も出ませんよ」と笑う。
「いやいやほんとほんと。日本茶だけじゃなくて前に入れてくれた紅茶、あれも美味かったよ」
「ありがとうございます」
にこにこと笑いながら鈴木さんは良太と自分のマグカップにお茶を注ぐ。
「でも鈴木さんの紅茶、美味いっすよね。お茶って入れる人によるんですよね~」
良太もうなずいた。
「まあ、じゃあ今度またとっておきのお茶を入れましょうね」
下柳をずっと待たせておくわけにもいかず、良太はお茶を飲み干すと、カップは片づけるからという鈴木さんに任せて、自分のデスクからタブレットと書類を持って下柳のところへ移動した。
「へえ、その内野って先生、結構あちこち行ってんじゃねーか。こりゃ話も合うかもな」
「きっと合うんじゃないですか? 体つきはそう大きな人じゃないけど、躊躇なくどこへでも行くって感じ」
「ほう? 頼もしいんじゃね?」
「一度顔合わせしてもらいますから、その時にまた……そういえば有吉さん、もう部屋決まったんでしたっけ? 別件で一週間ほどオーストラリアって話でしたけど、帰ってきたんですよね?」
「おう、それそれ」
下柳はまたにやりと笑う。
有吉はつい最近、知らないうちに撮影したショットに写っていた男が原因で妙な事件に巻き込まれ、自分の部屋を燃やされるという被害にあっていた。
一時は既に撮影済みのデータが燃やされたかと心配したが、有吉は自分でもデータを持ち歩いているし、クラウドサーバにバックアップしていたので事なきを得た。
それはよかったが、車に積んでいた機材を除いて何もかも燃えてしまったため、しばらくホテル住まいだった。
「なんてーか、例の市川さんが有吉のために便宜を図ってくれて、あいつ、昨日だか新しい部屋に落ち着いたみてぇだぜ?」
「そりゃ……、よかった」
「なに、良太ちゃん、市川さんにちっとは気があったんじゃねーの?」
揶揄されて、良太はぶんぶんと首を横に振る。
「とんでもない! 収まるとこに収まったってことですよね? 市川さん、それこそ噂になっても構わないって感じだったし。これで有吉さんも心置きなく仕事に専念してもらえるし」
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