いったい宇都宮のような大物俳優が相談というのは何だろうと良太は頭の中でああでもないこうでもないと考えていた。
その間に、宇都宮が頼んだトマトとチーズのカプレーゼ、シーザーサラダ、グリルチキン、和牛のタリアータなどがテーブルに並べられていく。
宇都宮はワイン、良太の前にはシャーリーテンプルが置かれた。
「ノンアルカクテルだから遠慮なくどうぞ」
「いただきます!」
さっきから目の前に並んだ美味しそうなにおいが鼻を刺激して、良太は一気に空腹を思い出した。
宇都宮はオーダーした時同様、皿にたったか取り分けて良太の前に置いた。
「工藤さんまだオーストラリアだって?」
「はあ、CMの仕事が急遽決まって」
「しかしほんと忙しい人だよね。それに比例して良太ちゃんも仕事が増えてく?」
「え、いや、まあ、比例するわけじゃないんですが、うちは何しろ、色々事情もありなので、万年人手不足って感じで」
言ってしまってから、当然宇都宮も工藤の事情を知っているんだよな、と良太ははたと考える。
「なるほど、難しいとこだよね〜。そういや、昨日、良太ちゃん、楠先生にスカウトされそうになったんだって?」
良太は目を丸くする。
「な、んで、そんなこと知ってるんですか?」
「坂口さんが夕べ飲み屋でばったり楠先生に会って愚痴られたんだってさ」
笑いながら宇都宮が言った。
「え………、いや、参りましたよ、だって急遽南澤のつきそいで行ったオーディション会場で、あの人につかまって、俺が社長秘書ですって名刺出しても、そんなの関係ないって感じで」
お蔭で奈々を送って帰ってくると、猫たちの相手も早々にバタンキューだった。
「業界人って常識とか言葉通じませんよね〜」
ぼそっと言ってしまってから、はっと気づいて、「いえ、宇都宮さんは違いますよ、ちゃんと言葉が通じるし」と慌てて訂正する。
宇都宮はくくくっと笑う。
「言葉が通じないか、わかるよ、それ」
その時、良太のスマホが鳴った。
デザイナーの佐々木オフィスの直子からのラインだ。
仕事やプライベートで何かと情報交換している頼もしい友達である。
『なんかさっそくSNSで拡散してるよ、竹野紗英が工藤さんに振られて泣き喚いてるとか』
動画へのアドレスつきで送られてきたメッセージだ。
「え、何だよこれ?」
思わずアドレスをタップすると、先ほどホテルの廊下で喚き散らしていた紗英の画像と、思わせぶりな内容のフレーズが並んでいる。
「どうしたんだ?」
宇都宮も訝し気に聞いてきた。
良太がスマホの画面を見せると、「ああ、これ、内通者がいるんだよね、きっと」と宇都宮が言った。
「内通者?」
「いやそういうと語弊があるかもだけど、何でも今はネットで情報合戦だろ? 面白がってか、竹野をよく思わないやつか、はたまた何でもドラマの宣伝にしちまおうって、スタッフとか」
「魑魅魍魎の世界だ」
ついつい良太は口にしてしまう。
「工藤さん、いい迷惑だよな、会ったこともないんだろ?」
「多分」
「モテる人は苦労するね」
とかなんとか言っている宇都宮こそ、あれやこれやとマスコミに取り上げられるし、鵜の目鷹の目で宇都宮の新しい相手を探している連中につけまわされている。
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