花を追い31

back  next  top  Novels


 かなり前に妻を亡くし、男手一つで母を育てた優しい人だった。
 そんな祖父の訃報はいきなりだった。
 学校にかかってきた電話で家に帰ってみると、すぐに病院に連れていかれ、祖父は既に亡くなっていた。
 くも膜下出血であっという間だったらしい。
 平造が入院、という連絡を受けた時、ふっとそんな記憶が蘇った。
 何となく平造を祖父のような感じで見ていたんだな、と良太は改めて思う。
「あれ、そうすっと、工藤って俺にとってやっぱオヤジの領域ってこと?」
 あんたの親みたいなもんなんだろ、なんて口にしてしまったし。
「いや、そいつはちょっと、可哀そうかも………」
 苦々しい顔をした工藤が目に浮かぶ。
 疲れて帰ってきて迎えが来ていないとか、申し訳ない気持ちがないはずはない。
 だけど、仕方ないじゃん。
 ひとまず心配しているだろう鈴木さんに電話を入れ、会社の状況を確認した良太は、携帯のカレンダーの日付にふうっと一つため息をつく。
「ひえ、もうGWすぐじゃん。うかうかしてらんないねっと」
 一人ごちて良太はエンジンをかけた。
 すっかり暗くなった道を別荘の門まで車を走らせると、センサーで灯りがついた。
 と同時に車のナンバーを認識して門が開く。
 ゆっくりと車を進めた良太はあれ、と思う。
「俺、灯り消すの忘れてったっけ」
 庭園灯だけでなく、玄関やリビングの灯りもついているようだ。
 車を降りて、玄関を開けようとした良太は、「うわ、鍵かけるのも忘れた?!」と慌ててドアを開けた。
 ところがリビングに行くと、暖炉が燃えている。
「あれ? 何で? 誰が? 泥棒???!!!」
 良太は恐る恐る中へと足を踏み入れた。
 途端、ぬっと黒い影が現れた。
「うわっ!!!!」
 思わず後ずさった良太は後ろにひっくり返りそうになって慌てて間近の柱を掴む。
「何やってるんだ、お前は」
 聞きなれた声が降ってきて、「…へ??」と良太は顔を上げた。
 何しろ古い造りだから、リビングの年代物のシャンデリアは薄暗く、フロアスタンドを引き寄せないと夜でなくても本など読めない。
 そんなだから大きな男に灯を背にして立たれたら誰だかわからなかった。
「泥棒がわざわざ灯をつけたり火を燃やしたりするか」
「何だよ、ひとことこっちに来るって言ってくれれば………」
「面倒だから羽田から直接来た」
 工藤は持っていた携帯をテーブルに置くと、コートを脱いで暖炉の薪を火かき棒でつつく。
 エアコンだけではなかなか部屋は温まらないので、寒い時は必然的に暖炉の近くに行くしかない。
「へ? タクシーで?」
「平造が心配なら来いって言ったのはお前だろう」
「平さん、二、三日入院した方がいいって」
 ちぇ、何だよ、俺のせいにしないで素直に言えばいいじゃん、平さんが心配だったって。
「二、三日といわずしばらく大人しくしていればいいんだ。明日から杉田に来てもらう」
「あ、もう連絡したんですか」
「ああ。どうせ何も食ってないんだろう、寿司の出前を頼んでおいた。俺は風呂に入ってくるから払っといてくれ。先に食ってろ」
 杉田は年配の家政婦で、たまに会社の誰かが別荘を使うときなど頼んでいるが、平造とも茶飲み友達といったところだ。
 曾祖父母が存命の頃から、軽井沢に来るたびに杉田が近くに住んでいるのもあって来てもらっていたので、工藤よりこの別荘のことは詳しいくらいだ。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます