本谷和正は確か二十五歳、M大を卒業して営業マンをしていたところ、営業先がたまたま今の芸能プロで逆にスカウトされたという話だ。
何せイケメンで身長も高くプロポーションもいいから雑誌のモデルかなんかで中高生の間で火がついて、アイドル路線でCMやドラマのチョイ役などを経てあっという間にブレイクした。
見るからに軽いチャラ男だと思っていた良太だが、少し、見方が変わったかも知れない。
「好きです、か。ちょうど何年か前、似たようなことを工藤にぶっちゃけたやつがいたよな。よく告られるんだ男にも、か」
あんなオヤジに入れあげるなんて良太くらいよなんて、アスカさん言ってたけど、俺だけじゃないみたいだぜ。
お前の気持ちには応えられない、か。
言われたのは本谷なのに、何だか自分が言われたみたいに、胸の辺りがぎゅっときつかった。
なんか、俺も、よく告られる男、の一人ってことかよ。
「俺には好きなヤツがいるとか何とか、本谷に断る言い訳にしても言っとけばよかったのに、何だよ、バカやろ!」
それこそ周りに聞いている者などいないだろうとばかり、良太は声を大にして喚く。
もしほんとに好きな相手がいるのなら、はっきりそう言うのではないか。
ぐらつく思いは今に始まったことではないのだが。
グダグダ考え込んでいたので、後ろのドアが開いて乗り込んできた工藤に、慌てて、「お疲れ様です」と声をかける。
「忘れないうちに、チケットとパスポート、オンラインでチェックイン済ませてありますから」
良太はリュックから工藤のセカンドバッグを取り出して渡す。
「弁当とか、食べました? これ、サンドイッチと缶コーヒー入ってますから」
もしやと思って買っておいた近所のデリカテッセンの袋を差し出した。
「おう、明日………」
袋を受け取って何か言いかけた工藤の携帯が鳴った。
「ああ、どうも。ええ、今夜の便です。仕方ないでしょうが、藤田さんに呼ばれたんで。はあ? 最初に押し付けてきたのはあんたでしょうが。はい、はい」
どうやら相手は坂口のようだ。
良太はエンジンをかけるとハンドルを切って駐車場を出た。
首都高に乗ると羽田へと車を走らせる。
湾岸線から空港西出口で降りて環八通りを進み、国際線ターミナルへと向かう。
ターミナルについても工藤はまだ坂口とああでもないこうでもないと続けている。
駐車場に車を停めると、良太はトランクから工藤のスーツケースを取り出した。
ようやく工藤は携帯を切り、車を降りてスーツケースを受け取った。
「明日、ヤギがオフィスに寄るから聞いてやってくれ。それと、また打診していたヤツが降りたらしい。どこかでまた坂口さんとキャスティング練り直してくれ」
「あ、はい、わかりました。気をつけて」
というしかないだろう、ここは。
工藤もあちこち大変なんだから、文句も言ってられないか。
「お前も気をつけて帰れ」
たったか工藤が歩きかけたので、良太は運転席に戻る。
いつもながらにそっけない。
搭乗口で見送るのも嫌だが、駐車場で別れるってのも何だかそぞろ寂しい気がして、良太はしばしぼんやり工藤の背中を見つめた。
と、その工藤がまたくるりと踵を返してこちらに向かってくる。
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