工藤についてクルーザーに乗り込むと、「あの、どなたの接待なんですか」と良太はあらためて聞いた。
だがコックピットの工藤は、「出すぞ」と言っただけで、クルーザーはあっという間に沖へ出て行った。
いきなりの青い眩しさに良太の視界が一瞬とぎれる。
やがてエンジン音が静かになった。
水平線は果てもなく、白いボートが一つ、青い海原にぽっかりと浮かんでいる。
夏がまだ名残惜しげにそこに居座っているようだ。
「良太、キッチンから飲みたいもの持って来い」
工藤の声に、良太はガラス張りのドアを開けてキャビンの中に入っていく。
ソファ、テレビ、オーディオ、バーキャビネット、ノートPCなどが並ぶその奥に、外国製の完璧な設備を備えたシステムキッチンがある。
奥をのぞくとキングサイズのベッドがでんと置かれていた。
「なんかすげ……」
思わずボソッと呟きながら冷蔵庫を開けると、ミネラルウォーター以外はカクテルやワイン、ビールが並んでいる。
イタリアロケの時、ポルトフィーノで加絵に招かれたクルーザーの上でのパーティを良太は思い出した。
景色のすばらしさもだが、いろいろ思い出したくもないことまで思い出して良太はちょっといやな気分になる。
加絵のクルーザーまではいかないが、このボートもその小型版で、会社の人間全部くらいなら乗れそうだ。
「工藤さん、何か飲みますか?」
ミネラルウォーターを開けながら聞いた。
「俺はいい。上着脱いでおけ。濡れるぞ。奥の部屋にジャケットがある」
工藤が言った。
「はあ」
半分ほどボトルを空けてから、暑くて脱ぎたかった上着をやっと脱いで、良太は言われるままに奥の部屋のドアを開けた。
「えっと、どこにあるんだよ」
呟いた良太のすぐ後ろで、「加絵に買わされたんだ」という声がした。
「って、これ、工藤さんのってこと? すんげ………」
慌てて良太は振り返る。
「まあ、たまに下界から抜け出したくなったとき、使うにはいいさ」
「え…」
振り返った良太を工藤はトンと押した。
バランスを崩して良太はベッドに倒れこむ。
「ちょっと、あんた、接待って……」
「俺は嘘つきヤロウだったよな」
工藤がニヤリと笑う。
「……騙しやがったな!」
ようやく図られたことに気づいた良太だが、工藤は暴れる良太に覆い被さり、良太をベッドに捉えてしまう。
「あんた、何考えてんだよ、こんな昼間っから…」
「たまには休養も必要だと言ったろう。そのうち夜になる」
スルリスルリと良太の言葉をはぐらかした工藤は、良太の頤を掴み、キスで良太の抗いを止める。
ただでさえ暑いキャビンの中で、良太の身体は熱を帯び、服を脱がされても抵抗する気力が失せていく。
海の上、午後の気だるさ、波が揺らす空気、唐突に現れた非日常が良太からいろんな思いは消し飛び、工藤がもたらす限りなく甘い欲望に従順にさせる。
「……や…だっ! 溶ける……」
「溶けろよ…」
「……や………」
終わりのない海の底へひたすら墜ちていく。
意識を取り戻した良太が最初に見たのは天井だった。
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