ぶなの森2

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 良太も業界内では彼女の不倫の噂は耳にしていたが、今のところ噂どまりなのは、相手の父親である代議士からの圧力と局側による彼女の所属する大手事務所Aプロへの忖度もあり、マスコミやスポンサー側へはもらさぬよう関係者に厳重に緘口令がしかれている所以だった。
 昨今、不倫には世論が厳しく、嗅ぎつけられればネットで一気に拡散してしまうのは必須だ。
 そうなるとタレントのイメージダウンはもとより無論四方八方多大な損失につながる上、代議士の名前にも響くというわけだ。
 話を聞いていて、良太は思わず男が悪いと非難した。
「そんな男、早いとこ別れた方がいいですよ」
「……そうね……それができればね……」
 まっすぐな良太の視線に心を許した菜摘は、それ以後、何かと言うと良太ちゃん、良太ちゃんと呼びつけるようになった。
 良太も菜摘に、相談があるの、などと持ちかけられると、持ち前の正義感から断りきれないでいた。
 そんな二人の親密さに、ロケのスタッフの間では、不倫女優の菜摘がついに良太まで食ったとなどと噂が広がっているのも知っていたのだが。
 口の悪い主演の流には、以前良太があるドラマでちょい役で出た時のことを持ち出されて、今度は下手くそなお前の演技が見られなくて残念だとか、女のたぶらかし方は社長譲りかなどと、散々言われている。
 さらに他局でもこの老弁護士シリーズに出演したことのある黒川真帆がヒロインをライバル視するいじめ役で出演しているが、工藤が来ないのが面白くないと、マネージャーの石倉だけでなく、良太にもあたるのだ。
 この、工藤を好きだといってはばからない黒川には、良太もいろいろと苦労させられていた。
「ドラマの撮影でロマンスが芽生えるって、よくあることよね」
「ちょ、違うって、アスカさんまで変なこと言わないで下さいよ」
 さらに良太と菜摘が親しげに話しているのを見て良太をからかうのは中川アスカだ。
 途中でロケに加わった彼女は、志村と並ぶ青山プロダクションの看板俳優で、今回は青森県警のキャリア石渡役で、若手弁護士海棠とことごとくぶつかるという役どころをいかにも憎まれっこらしく演じている。
「あら、いい雰囲気じゃない。中年のオヤジなんかおっかけてるより、ずっといいわよ、良太、応援したげるから」
 アスカはからかい半分そんなことを言う。
「しなくていいですって」
「でもちょっと面倒そうよね、あの子。身ぎれいにしたら、いくらでも良太に推薦したいけど」
 困惑している良太の背中を見ながらアスカは隣に立つマネージャーの秋山に振った。
「ああ、例の代議士の性悪息子とまだ離れられないのか」
 秋山は表情も変えずに言った。
「興味なさそうな顔して、よく知ってるじゃない、秋山さん」
「仕事柄、赤丸上昇中の人物に関してはちゃんとチェックしてるんだよ」
 淡々と秋山は説明する。
「ふーん。彼女、注目株?」
「そうだね。彼女はだが、君ほどアクがない分、つまらない男に引っかかりやすい」
「アクの権化で悪かったわね」
 悪びれもせず、アスカは言った。
 そしてこのロケには珍しく、原作者の小林千雪までもが顔を出していた。

 


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