小林千雪といえば、時折警察にも知恵を貸して解決した事件も多々あるミステリー作家として巷では知られているが、助教としてT大法学部に在籍している。
その彼を一躍有名にしたのが、分厚い黒渕メガネとぼさぼさの髪、超ダサダサのファッションセンスで、学内の女子学生の間では、ダサい、臭そう、キモい、などと散々な言われようなのだ。
「やあだ、あのセンセの小説は読んでもいいけど、実物は会いたくないよね」
「なんか、臭ってきそう?」
黒川真帆がADの女の子と、千雪の悪口を言ってケラケラ笑っている。
「何だ、あいつら」
それを小耳に挟んだ良太は腹を立てる。
「中身のない連中って、上辺のことしか見えないのよね」
良太が何か言う前に、黒川たちをアスカがビシッと釘をさす。
「な、何よ、それ! あたしたちのこと?」
「ほかにいる?」
アスカの鋭い視線に、「失礼ね!」とばかり黒川はその場を去った。
良太はアスカと思わず小さくハイタッチ。
千雪のいでたちに、実は裏があることを知っていたからだ。
「千雪さん、いい加減、その仮装やめましょうよ」
監督や脚本家らと挨拶を終えた千雪に、良太が近づいてこっそり耳打ちする。
「何言うてんね。こないおもろい人間観察、やめられるかいな。それに今は一応、ジャージやのうて、ちゃんとスーツ着てんで?」
これである。
実はわざとあり得ない色の組み合わせのジャージを着たり、その辺のスーパーに置いてあるような、激安スニーカーなどを探して、周囲の視線を惑わすことを千雪は面白がっているのだ。
というのも実際の千雪は、稀有なほどの美貌の持ち主で、これらのコスプレはあまりに女の子に追いかけらるのがうざくて、東京に来て策を練った結果なのだ。
千雪をネクラなオッサンなどと中傷している輩が聞いたら怒りそうなことを平気でいう千雪は、本人を知っている者からすれば、結構な毒舌家だ。
千雪は「執筆でしばらく滞在するからな」付け加えた。
「え、そうなんですか?」
ただ、愛犬のシルビィを連れて近くのコテージにいるが、締め切り前だからみんなには内緒にしておいてくれと言う。
「俺も近くのコテージですから、何かあったらいつでもどうぞ」
良太の申し出に千雪は笑い、「ほならな」とロケ現場を去った。
監督、俳優陣やマネージャーらはホテルだが、スタッフや良太、それに青山プロダクションの嘱託カメラマンの井上はコンドミニアムやコテージを利用している。
コンドミニアムやコテージは多人数用の方からうまっていき、良太と俊一は二人用コテージに落ち着いたが、井上が仕事でとんぼ返りしたので、今は良太一人で使っている。
良太は千雪の後姿を見送りながら、何となく千雪のようすに違和感を感じたが、次から次へと押し寄せる仕事に忙殺された。
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