ACT 2
「良太ちゃん、お弁当食べよ」
菜摘が弁当を手に良太に声をかけた。
「あ、はい。ちょっと待ってください」
良太が手配したロケ弁をスタッフが配ってくれて、みんな各々アウトドア用のストーブの周りに陣取っている。
夏とはいえ、東京の暑さとはうって変わってここは別世界のような涼しさだ。
濃い緑の樹木が高くそびえ、時折空をも隠す薄暗さは幻想的で神秘的であると同時に、ある種の畏怖の念を思わせるものがある。
携帯の電波がたまに途切れることがあり、良太は用があるとあちこち動いて、電波の強いところで電話をせざるを得ない。
やがて休憩時間も終わり、撮影が再開された。
「寒くないですか?」
良太は線の細い菜摘を気遣った。
「うん、大丈夫」
撮影が始まってどのくらい経ったろうか。
良太は監督の背後にひときわ背の高い見知った顔を見つけた。
一見して日本人とは思えない端正な顔立ち、隙のない身だしなみ、立ち居振る舞い、顔立ちがどんなに整っていようが、その目の鋭さには只者ではないオーラがあった。
「いつの間にきてたんだろ、工藤さん」
つい口にしてしまうくらい、良太は嬉しさを隠せない。
だが、撮影が切れないと向こう側にはいけない。
ミラノから一足早く帰国し、工藤がロケに顔を出したのにはわけがあった。
たまたまポスター広告用の写真を撮っている井上から電話が入った時、ついでに良太が菜摘にどうやらご執心らしいなどと聞かされたからだ。
良太と菜摘二人の関係は井上の言うよりもっと親密に見えた。
ついつい良太に行くとも何とも言わずにきてみたのだが、実際自分の目の前で、やけになか睦まじげなようすを見せられた工藤としては、内心穏やかではなかった。
実は工藤と良太、社長と社員という以外に、俗に言えば恋人だろう付き合いなのだ。
アスカに言わせれば、良太は工藤一直線の従順なワンコ。
これまでにも山あり谷あり、二人の間に亀裂やら邪魔者やら、さまざまなものがあった。
何せ、幼い頃から野球少年で、直球一直線だった良太が慕っているのは、海千山千の伊達男、しかもワケあり、だ。
が、その実、四十路に突入したオヤジ工藤の心の葛藤など誰が知ろうか。
ワンシーンが終わり、良太はやっと工藤に駆け寄っていく。
「いつ日本へ? 何日滞在します?」
工藤は一日、二日だ、と答える。
良太は早速、工藤のために温泉が完備されたホテルに部屋を確保した。
「ゆっくりやすんでください」
「ああ」
工藤はそっけなく答え、かかってきた携帯に出る。
「ちぇ」
せっかく帰ってきて嬉しかったのに、イタリアと話しているらしい工藤に、やっぱりあっちでルクレティアか誰かとうまくやっているんだ、と良太は面白くない。
ルクレティアとはミラノのテレビ局で広報部のチーフとして活躍している美女だ。
ついこの間まで日本にいて、工藤にべったりだったのだ。
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