「あの女とは何でもない」
工藤は言うのだが、どうやら今はそうだとしても昔はよろしくやっていたらしい。
まだほかにもあちこちに工藤の女がいるに決まっている、と言ったのは、青山プロダクション所属のイケメン俳優、小笠原だ。
そんなことをいわれると、良太としては工藤がイタリアにいるだけでも気が気ではない。
そんなに言葉も交わせないまま、良太も下柳からスケジュール確認の連絡が入り、そのうちに工藤は電話を終えて、監督たちのほうへ行ってしまった。
夕方、撮影が終わると、良太は今後の予定を聞こうと工藤を探したが、何やら今度は脚本家を交えて話し込んでいる。
「しゃあない、一旦コテージに戻ろ」
とぼとぼと歩いていると、向こうからハスキー犬を連れた影がやってくるのに気づいた。
「千雪さん」
「よう、顔が暗いで。どないした?」
そう言う千雪は、さっき真帆たちに臭そうなどと言われていた小林千雪とはまるで別人だった。
良太はあらためてしげしげと、この超美形の青年を見つめた。
ドラマに出演している佐原健介が超美形なら、千雪は超超美形じゃん、と良太だけでなく、彼本来の容姿を知っている者なら言うだろう。
とはいえ、わざとキモい臭そうなどと言われるようなコスプレを考えて楽しんでいるというのだから、たちが悪いかも知れない。
「意気消沈て顔に書いてある」
からかう千雪は良太に、ペットと一緒に入れるカフェがあるから行くかと言う。
良太は、「はい」とついていく。
もともとこの千雪こそ、工藤とのことで良太が嫉妬していた人物なのだが、仕事で一緒に動くうちに、千雪には今までにない親近感を覚えるようになった。
「え、この犬、ほんとは千雪さんがもらったんですか? 京助さんの犬じゃなく?」
「まあそうや」
「まさか、事件絡み?」
「ま、色々わけアリや」
千雪は良太の好奇心を煙に巻いてフッと笑う。
カフェに入って、サンドイッチやコーヒーをたのみ、ひとまず落ち着くと、京助がアメリカに出張中なので車でシルビーと一緒に来たと千雪は言った。
そのうち千雪はポケットから携帯を取り出して、電源を入れる。
「いつも電源切ってますよね」
良太が聞くと、「敵前逃亡」と千雪は笑う。
「編集担当者がそろそろ連絡をしてくる頃やから」
「多部さん? なるほど~。原稿、はかどってます?」
「はかどってたら、ここにはいてないて」
千雪はにっこり笑って断言する。
「ですね~」
良太も合わせて笑う。
「あら、良太じゃない、こちらはどなた?」
いきなりあまり歓迎しない声を聴いて、良太は顔を上げた。
黒川真帆だ。
どうやらこのカフェで先にお茶を飲んでいたようだ。
既に彼女の撮影は済んでいるが、ロケ最終日のバーベキューパーティまでいるつもりらしい。
「知り合いです」
それ以上答えようがない。
ちょうど千雪の携帯が鳴り、千雪はちょっと席を外して電話に出た。
「すんごい美形。いままで見たことないわ」
ジロジロと黒川が見つめる千雪は、順調だから心配ない、と相手に答えている。
「真帆、行くぞ」
黒川はマネージャーの石倉に呼ばれ、やっと店を出ていった。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
