「あいつ……、よほど、お前がキモイといっていた小林千雪だって言いたかったですよ」
戻ってきた千雪に思わず良太はぶちまける。
「あの子、工藤さんにベッタリなんやて? 良太、それで面白くないわけや」
「誰に聞いたんですか~そんなこと。わかった、アスカさんだな」
その時、また千雪の携帯が鳴った。
千雪は携帯を見たが、すぐまた電源を切ってポケットにしまう。
「え、いいんですか」
「ええんや」
千雪は言う。
でも、一瞬、躊躇しなかったか? 今、千雪さん。
「ワイン、飲まへん?」
急に千雪が言い出した。
「いいですね」
「せや、この子、シルビー」
「シルビーか」
お利口に千雪の傍らで伏せているハスキー犬を良太は撫でてやる。
二人で飲み始めたのはいいが、千雪が妙にテンションが高い。
変なのは千雪のほうだ、と思う良太。
そんな時、今度は良太の携帯がなる。
「どこにいる?」
案の定、すこぶる機嫌が悪い工藤の声だ。
千雪と飲んでいると良太が言うと、スケジュールの確認に来い、と怒鳴りつけられる。
ぐちぐち文句を言いつつ良太が立ち上がると、そんな良太を笑いながら千雪も店を出てコテージに戻っていった。
コテージを出たところでまた良太の携帯が鳴った。
「あ、井上?」
写真撮影を半端で切り上げたので、翌日にはまた合流すると言う。
「な、そういえば千雪はそっちに行ってるか?」
じゃあと言いかけた良太に、井上が聞いた。
「ロケに顔出してから、コテージで執筆中みたいだ」
井上ならかまわないだろうと、良太は答えた。
ホテルまではちょっと歩く。
ふと空を仰げば大きな丸い月が煌煌と輝いている。
すぐ横の森の奥に目をやると、まるで吸い込まれそうな不思議な怪しさがあった。
「うう、早く行こっと」
良太は足早にホテルに向かった。
ホテルの工藤の部屋をノックすると、風呂を使ったらしくバスローブの工藤がドアを開けてくれたが、また電話中だった。
今度は相手は志村のようだ。
脇で出演している青山プロの新人、奈々もマネージャーの谷川とともにまだミラノだ。
電話が終わると、工藤はベッドに腰を降ろし、椅子に座ってタブレットを出して読み上げる良太にスケジュールの確認をする。
「明日の昼には東京に戻る」
スポンサーとの打ち合わせがいくつか入っているという。
良太は心の中では、なんだぁと思うが、意地でも何気ないふりをして、スケジュール確認がおわると立ち上がった。
「じゃあ、ごゆっくり」
ドアに向かおうとした良太は上着の後ろ首を引っ張られて戻された。
「ちょ、何、すんですか!」
「そのつもりできたんだろう?」
耳朶に直接言われ、良太はぞわっと体中が浮き立つのを覚える。
「悪代官みたいなこといいやがって」
良太は喚く。
「ルクレティアとよろしくやってろよ!」
「まだ根に持っているのか」
「俺には関係ねぇよ!」
「びーびーとうるさいやつだな」
「…んだと?!」
「あの女とは仕事も終わったし会う暇なんかあるか」
散々悪態をつく良太に、工藤はついそんなことを言ってしまう。
良太がいつまでもルクレティアのことを気にしているので、つい、工藤は嘘をついてしまったのだ。
実際は、ミラノのテレビ局がドラマの放映を申し出てきて、広報部チーフであるルクレティアがその担当者だった。
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