Buon Viaggio!3

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 良太とスーツケースじゃ、どっちを取るかなんて聞くまでもないだろう。
 残念ながら工藤のそんな心の呟きは良太には聞こえないらしい。
 それにしても工藤の身の回りのものといって、ちょっとやそっとのシロモノではないだろうに。
 それに鈴木さんへの土産だって。
 そんな良太の心配をよそに、適当に見つけて入ったアルマーニのメガストアで買った新しいシャツとパンツをそつなく着こなして工藤は涼しい顔をしている。
 移動するのも面倒だからと、スーツから下着まで一式その店で揃え、とっとと買い物を終えてしまった。
 ホテルに一旦戻ると、ぞんざいに選んだシャツやタイの中から、工藤は良太にシャツやタイを差し出した。
「え? 俺に?」
「不服なら取り替えてこい」
「とんでもない。何かいやに若いっぽいの選んでるなと思ってた…」
 内心ちょっと嬉しい良太の頭を工藤はポカリとやる。
「明日サッカーでも見に行くか」
「へ?」
 工藤は良太がセリエAのポスターを見て、何だかだ言ってたのを覚えていたのだ。
 せっかくだから良太を喜ばせてやりたい、とは口にはしないが。
「インター・ミラノがペルージャ戦だったな。ジュゼッペ・メアッツァまで行くか」
「だって、今日の明日じゃ、チケット…」
「知り合いがいるから、手に入るだろう」
「あ、でも俺、いいですよ。今回は」
 そりゃ、確かにせっかくイタリアにいるんだから、サッカー見られたらなんて思ったけれど。
「イタリアの歴史と文化を探訪したい…なんちって。ほらやっぱ美術っつうか、絵や彫刻見たりしたいかな、と」
 へへへと笑う。
 工藤に疲れを取ってもらうのが第一なんだから。久しぶりの休暇ならゆっくりしてもらいたい。
 良太は良太でそんなことを思う。
「絵や彫刻? お前にわかるのか?」
「バカにしないで下さいよ、こう見えても工作とか先生に誉められたんだから」
 工藤はまたムキになる良太をふん、と笑った。
 良太くんはいつもエネルギーに溢れてて、いいよ、とっても。
 だからいつも、がんばりましたね、とハナマルがついていたけど、よくできました、ってんじゃなかったなー。
 良太は優しかった小学校の担任の先生を思い出した。
 
   
 
 
 翌日、工藤が知り合いに頼んで予約してもらったはいいが、サンタ・マリア・デレ・グラッツィエ教会の中にやっと入れたのは一時間長蛇の列に並んだ後のことだ。
 しかも列のあちらこちらには日本人の団体がいる。
「俺、日本の寺に来たんだっけと思っちゃいましたよ」
「日本人は世界中にたむろしてるさ。特に有名ってだけで飛びつく女ども」
 煙草をくわえながら苛つきが顔に出ている。
 観光地にとっては、不況も何のそのの日本人は金のなる木だ。
「まーた、そんな言い方しちゃって。でも、知り合いってイタリア人ですか?」
「まあな。ほら、動いたぞ。前行け、前」
 あれ、何か、今、ごまかそうとしなかったか?
 良太は訝しく思いつつ苦々しげな顔つきの工藤に急かされて教会の中に足を踏み入れた。
「うっわー、すんげー、本物~」
 思わず、声を上げてしまう。
 良太の眼前には、柔らかな灯りに包まれ、すっかり修復されたレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」があった。
「教科書と同じだ~」
 呟いた良太の周りから、くすくすと笑いが漏れる。
 携帯で写真を撮り、SNSに載せてきゃっきゃしている女の子たちは、どう見ても日本からの観光客だ。

 


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