あちゃ~
良太は思わず天を仰ぐ。
隣で工藤も苦笑いを隠せない。
「工藤さんまで笑うことないだろ」
良太も携帯を取り出して、数枚写真を撮った。
「まあ、お前に芸術的な観点からものを言えなんて言わないさ」
「バカにして!」
荘厳な雰囲気の中、良太は英語で書かれた説明書きを読んで、絵を理解しようと必死だ。
「ほら、行くぞ、そろそろ」
「はいー」
慌ててカタログを買って教会から出ると、夏の空が眩しかった。
教会前まで地下鉄でやってきた二人が、また地下鉄で移動しようと歩き出したところで、すみませ~ん、という黄色い声が追いすがった。
「シャッター、押していただけませんかぁ? 日本の方ですよねぇ?」
OLか学生くらいだろう、茶髪の女の子二人組のうち、背の高い子が携帯を差し出した。
「ああ、いいですよ」
良太が携帯のファインダーから覗くと、結構二人ともイケてる雰囲気だ。
「ありがとうございましたぁ」
二回シャッターを押すと、笑顔を向けられて、良太もにっこりと返す。
「どういたしまして」
じゃあ、と立ち去ろうとする良太に女の子が尋ねた。
「あんのぉ、あちらの方は日本人じゃないんですかぁ?」
ははあ、サングラスを外しても外見上は日本人には見えないかもな。
工藤は腕組みをしたまま、イライラが極地に達しようとしていた。
「よかったらぁ、私たちと一緒にぃ…」
「何やってる、早くしろ!」
女の子が言いかけたとき、工藤はたまりかねて怒鳴る。
「ああ、社長が急ぐみたいなんで、じゃ…」
「すぐお前はまた、喜んで逆ナンされやがって」
良太が急いで駆け戻るなり、工藤が文句を言う。
「な、いつ俺が喜んで…」
「タカヒロ!」
抗議しようとした良太は、えっ、と声のした方を振り返った。
またしても女だ。
しかもバンバンバン、と出るところは出て引っ込むところは引っ込み、長身ですばらしい脚線美、正真正銘のミラノ美人というやつだ。
ぺらぺらぺらと巻き舌で捲くし立てながら、美人はブロンドを揺らして〃タカヒロ〃に抱きついた。
工藤はちっと舌打ちしながら、適当にあしらおうとするが、相手はひるまない。
「おい、ルクレツィア!」
スーツの美人はようやく良太に気づいたように振り返り、ボンジョルノ、と嫣然と笑う。
だが、それも一瞬で、また工藤にしきりと甘えるような仕草をところどころで見せながら、何かを訴えているようすだ。
むかむかを懸命に押さえつつ、それをバカみたいに見ていた良太だが、いくらバカでもその美人が工藤の言っていた〃知り合い〃だということはわかる。
しかもただの〃知り合い〃じゃないことも明々白々。
「じゃあ、俺、帰るから! どうぞごゆっくり!」
捨て台詞のように言い残して、「おい、待て、良太!」という工藤を無視して、とっとと地下鉄の階段を駆け下りた。
逆ナンがどうした!
くっそー、そっちがその気なら、あの子たちとどっか行けばよかった!
駅名を確かめながら地下鉄の切符を買った。
さすがに車両の中には外国人の顔ばかりだ。
ガタン、ガタン、という音が妙に大きく響く。
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