何だよ、チクショ!
夕べはエロっぽいことばっかやりやがったくせに!
ずっと撮影が続いていたし、険悪状態だったから、工藤に触れられた途端、良太はあっけなく力を吸い取られたみたいになって、泣かされどおしだった。
思い出してかーっと熱くなり、誰もわかるはずもないのに、良太はつい周りを気にする。
あのエロオヤジ! いい年して、あっちこっちでやりまくってんじゃねーや!
カッカきて歩いていた良太は喉が渇いて、飛び込んだ店でガス入りのミネラルウォーターを買った、つもりだった。
酒だったんだ~、とわかったときは、もういい気分になっていた。
すーっと心地よい風が良太の頬を撫でていった。
まどろみから目が覚めた良太は、はっと体を起こす。
昨夜あまり眠らされていなかったのと酒のお陰で、すっかり熟睡してしまったらしい。
時間はとっくに昼を過ぎている。
すぐに教会を出たところでのことを思い出して、良太はまた腹が立つ。
シャワーでも浴びよ、とベッドを降りてバスルームに向かおうとして、開いているドアからリビングにちらと目をやった良太は人影に気づいた。
工藤はデスクに置いたタブレットに向かってキーを叩いていた。
ほっとすると同時に、良太は何かひとこと言ってやらなければ気がすまない。
「お早いお帰りじゃないですか」
「飯は食ったのか」
工藤は振り向きもせずに聞き返す。
「〃お知り合い〃の美人とは一緒じゃなかったんですか、社長」
「いつまでもくだらんことを蒸し返すな」
良太の言葉など取り合わずにキーを叩く。
「あっそうでしたね、俺なんかに何の関係もないんでした!」
厭味たっぷりに言い残して、良太はバスルームのドアを思い切り音を立てて閉める。
腹立ち紛れに服を脱ぎ捨て、水を頭からかぶる。
ようやく湯を出してざっとシャワーを浴びると、バスローブを引っ掛けて洗面台の鏡を覗き込んだ。
「まだまだヒヨッコの顔してんな~」
しみじみ思う。
「あんな海千山千の伊達男に、そうそう太刀打ちできっかよ」
ふうっとため息をついた途端、ぽたり、と落ちた水滴が洗面台から吸い込まれていく。
「ちぇ…情けねー」
こんなの俺じゃない。
そう思うほどに工藤に夢中なのだ。
どうにも感情がコントロールできない。
手のひらでバシッと叩いた洗面台から、石鹸のボトルがひっくり返って床に落ちた。
全く。
バスルームに消えた良太の背中に目をやって、工藤はふっと笑みをもらす。
とんだお騒がせ女だ、ルクレツィア。
あんなところに現れやがって。
放送局に務める人気キャスターで結構な才女であるが。
あれもわざとだ。
俺が誰と一緒か探りにきたのだ。
相手が男だといって、彼女の目はごまかせない。
以前は割り切って遊んだつもりなのだが、どうやら俺が一人に絞ったのが気に食わないらしい。
根掘り葉掘り聞いた挙句、Buon viaggio! とそれでもようやく解放してくれた。
ホテルに戻って、良太がベッドで大の字になっているのを見て、ほっとしたものだ。
また、家出でもされたらたまったものではない。
カタン、とバスルームで音がした。
それから、しん、と静まり返っている。
作りかけの企画書のファイルを閉じると、工藤は立ち上がり、バスルームのドアを開けた。
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