意固地になってろくに口も聞いていない。
どんどん、遠くなる気がする。
工藤……
その時また、加絵が飲み物を持って工藤に寄り添うのが見えた。
工藤のバッキャロ!!
「良太ちゃーん、そろそろラスト行くよ」
「ハイッ!」
キショーメ、こうなったら、せめて完璧にやったろうじゃん!
パシパシ、と頬を両手で叩くと、良太は気合を入れて立ち上がった。
ジョヴァノッティ家がヴィラで開いてくれたカクテルパーティは、撮影が無事終った開放感から、クルーやスタッフ共々、大いに盛り上がった。
フォカッチャ、モッツァレラチーズに熟したフルーツトマト、ブルスケッタやアッリオ・オッリオのパスタ、海老のフリッターなどなど、軽食とはいえ用意されたものは実に美味い。
もっぱら飲む方の井上や秋山の傍で、日本ではお目にかかったことのないチーズがたくさん並ぶトレーを前に、良太やアスカが遠慮なく健啖振りを発揮する。
ふっと視線を感じて、良太が振り返ると、後ろのソファに優雅に寝そべっていたチンチラペルシャが青い目をじっと向けている。
どうやら良太というよりチーズに用があるらしい。
ヴィラに入ってすぐ、このきれいなネコがとことこ現れ、良太は思わず手を出そうとしたが、ふがっとばかりに歯をむかれたので、ついうがっと歯をむいて、アスカに散々ガキだとばかにされた。
そういう経緯があるので、誰がチーズなんかやるもんか、と思う良太だが、いつのまにかすぐ傍にきて座っている。
そんなところを見ると、やっぱり可愛くなる。
良太はチーズのかけらをネコの前に差し出した。
「チェチーリアには何もやらないで!」
その声にびくっとして良太が手を引っ込めると、工藤の横にいたジョヴァノッティ家の女主がのたまった。
「ちゃんと栄養計算して食事を与えているのよ。人間の食べ物はダメに決まってるでしょ」
「はあ、すみません」
ネコにわるかったな、と撫でようとすると、またカッと歯をむいた。
「ちぇ、かわいくねーやつ」
ふん、うちのナータンは誰にでもなついて可愛いんだぞ! お高いやつめ!
良太は心の中で喚いてネコを睨みつける。
「いらっしゃい、チェチーリア」
加絵に呼ばれたネコは手入れされた長い毛をなびかせて、とてとてと主のもとに寄っていく。
ネコは加絵に抱かれるとまさしく絵のように美しい。
自慢気に周りを見下ろしている。
ふん、美人のマダムのネコなら大事にするんだろ。
口を尖らせた良太は鴻池と話している工藤をチラリと見やる。
その時、加絵の腕からネコがスルリと抜け落ちた。
傍を通りかかったスタッフの皿にどうやらネコの好きな魚が載っていたらしい。
ちょこなんと座ったネコと、話をしながら足を踏み出した工藤が交差する。
ギャオン!
甲高い鳴き声に振り返ると、白いふわふわしたかたまりが良太の傍を駆け抜けていく。
「なんだ、ネコか」
どうやらシッポを踏んだらしい男はそう口にしただけで、また鴻池と話に戻る。
あ~あ~~、かわいそうに。
ったく、ニンピニンなんだからよ、あのオヤジは。
チェチーリアはソファに戻って、一生懸命自分の尻尾をなめている。
ネコとか犬とか嫌いなのかな、工藤。
それはそれでちょっと淋しいかも、と良太は思う。
ものは言わないけど、人間のことをよくわかってくれるいいやつらなんだぞ。
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