「残念ながら、日向野は俺の家柄しか用がなかったらしいんで断りました」
「あらまあ」
佐保子はこんな調子だ。
小夜子とは案外ウマが合うかもしれないが。
「それは済んだことだからいい。お前は誰か付き合っている相手がいるのか?」
大長がストレートに聞いた。
「浮いた噂はたまに耳にするが、正式に付き合っている相手がいないのなら、お前に会ってほしいという人を紹介された」
京助が答える前に大長が言った。
「悪いが断ってください。付き合っている相手はいる」
「だったら、我々にも紹介しなさい」
京助は言葉に詰まる。
本当ならここではっきり口にしてしまいたいところだが、千雪に散々止められている。
今、約束を反故にするわけにはいかない。
「まだ紹介できる状況じゃない。帰ります」
京助が立ち上がり、ドアを開けると、洋子がトレーにポットとカップを乗せて立っていた。
「あの、お茶のお代わりを………」
「いや、いい。俺は帰る」
京助は洋子の横を通り抜けると、階段をたったか駆け下りた。
全く。
最近の千雪が何となく今までと違う。
おそらく、研二が上京したことと関係がないわけがないと。
そう思い始めると、千雪の部屋に行ってもうかつに手を出せない気がした。
考えてみればいつもの京助であれば、父親にも、千雪との約束とはいえ、考えるより先に口にしていただろう。
だが、心の中で待ったをかけたのは自分だ。
研二は店のオープン早々、披露宴の菓子のことで今頃躍起になっているところだろう。
普通の披露宴なら個数が多少多いくらいで済むだろうが、相手は財界の重鎮であるところの紫紀と小夜子だ、肩に力が入っても無理はない。
京都の店を臨時休業にして、本店も全面的にバックアップするらしく、父母は数名の職人を引き連れて既に上京したようだ。
千雪は小夜子と一緒に研二の両親に挨拶に行くと言っていた。
今夜は研二一家と小夜子の勧めで食事も済ませてくるという。
それはわかっていたが、京助は千雪のアパートに寄ると、翌日の朝と弁当用にサンドイッチだけを作り置いて出てきた。
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