公一から京助に電話があったのは昼少し前のことだった。
綾小路で長く家政婦をしているせつと今年五年目になる洋子が銀座に買い物に出たのだが、迎えに行くことになっていた公一が、レポート提出を忘れていて、今日中に提出しないと単位を落として留年かもとか泣きついてきたのだ。
疲れはピークだったものの、代わりに銀座まで京助が二人を迎えに行った。
綾小路に二人を送り届けて、荷物を家に運び込むと、すぐに帰ろうとした京助を、藤原が引き留めた。
「旦那様がお呼びです」
「は? 俺忙しいんだけど」
「たまには顔を出すようにと」
京助は舌打ちした。
このまま帰ると藤原が恐縮するのは目に見えていた。
「そう時間はないぞ、どこにいる?」
「上のリビングにおられます」
京助は階段を上がって行った。
ドアをノックすると、「どうぞ」という父親の声が聞こえた。
「何か俺に用ですか?」
部屋に入るなり京助は尋ねた。
ソファに座っていたのは父親の大長と、義母の佐保子だった。
「せっかちなやつだな。たまには顔くらいみせたらどうだ。ここのところうちにも滅多に寄り付かないし」
「忙しいんだよ。ここ二日半徹夜だ」
「そうか」
「まあ、せっかくいらしたんだから、お茶くらい飲んでらしたら?」
佐保子がポットから紅茶をカップに注いで京助に差し出した。
大長は研究室のことなどを聞いてきたので、京助は学会のことや研究室のことなどを少しばかり話した。
「そうか、自分の決めた道だ、しっかりやりなさい」
大長は自分の息子たちに対して、何かを押し付けることもなく、やりたいようにやらせてきた。
紫紀が東洋グループに入ったのも、大長が一時病気で入院したことを受け、自分で判断したことだ。
「ご自分の道を究めておられるのはよろしいですけど、紫紀さんも小夜子さんという素敵な伴侶を見つけられたことですし、京助さんにはどなたか決まった方がいらっしゃるのかしら」
苦労のない笑顔で、佐保子が当たり前のように京助に尋ねた。
これだから嫌だったんだ。
京助は眉を顰めた。
「祐紀さんが紹介して下さったお嬢様もお断りになったでしょう?」
日向野のことなどすっかり忘れていた。
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