芝氏も財界の大物の披露宴での発注とあって、極力後押ししてくれると研二は言っていた。
もとより、芝氏は小夜子や大和屋とは割と長い付き合いのようだ。
初めて芝氏に会った時、千雪もそんな名の知れた実業家とも知らず、研二の作った菓子を美味いと言って三人で食べていた。
素朴な出会いだ。
「芝さんもね、新しい幸せを見つけた方が、亡くなったご主人もほっとするんじゃないかって、おっしゃるのよ」
いつだったか小夜子が言っていたように、芝氏は今度の小夜子の再婚を純粋に喜んでくれたに違いない。
そして研二の菓子を本物だと思ってくれたからこそ、しっかり後押ししてくれるのだろう。
「そういえば、明日の晩、部の追い出しコンパ、俺も京助先輩も行くことになってるんやけど」
すっかり存在を忘れていた佐久間の声に、千雪は現実に引き戻された。
「へえ」
「なんや、伊藤さん、明日京助さんにガチでアプローチするみたいなこと言ってたらしいでっせ」
「へえ」
「先輩、気にならへんの?」
珍しく、マジな目つきで佐久間が千雪を見た。
「何で?」
すると佐久間は眉を顰めた。
「何で……て、そら、付き合うとる相手が誰ぞに迫られよったら、心配になるもんでっしゃろ? 日向野さんの時とはちょっとシチュエーションちゃいまっせ?」
こいつは俺に何を言わせたいんや?
千雪はイラついた。
「もし、先輩がお持ち帰りなんてことになったら」
「なったら? それはそれで京助が選んだいうことやろ? 俺がどう思うとか関係あれへん」
千雪はきつく言い切った。
「その時点で、俺らはTHE ENDなわけやし。それだけのことや」
「それだけ、て、長う付き合うてきはったんですやろ? それだけのことて、もっと何か……」
平然とした千雪の言葉に、佐久間は声高になった。
「去年の春も俺やめようて言うたことがあったけど、まあ、今まで続いてきたことの方が不思議なんか知れん。……既定路線や」
「何です? 既定路線?」
それには答えず、サンドイッチを食べ終えて千雪は立ち上がった。
忙しさマックスで疲労が蓄積しているのはお互い様だが、そういえば最近京助はアパートに来てもあまり触れてこなくなった。
ひょっとして伊藤が関係しているのか?
先日二人が話しているのを見かけたが、何を話していたのかもわからないし、そう知りたくもなかった。
魅力的な女性に言い寄られれば、男なら悪い気はしないだろう。
伊藤さんに一気に傾くこともあり得るわけで。
それならそれで、仕方がないだろう。
潮時。
既定路線、いうことや。
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