メリーゴーランド262

back  next  top  Novels


「それは……」
 京助も今度ははっきりと意味が分かった。
 千雪から別れを切り出されたのは二度目で、一度目は一昨年の春のことだった。
 大喧嘩のあと、千雪が京都に行ったと知った時、京助はひどく焦り、酷い風邪を引いていたにもかかわらず、京都まで追いかけて行った。
 焦ったのは、京都には千雪の好きだった幼馴染がいたからだ。
 その時幼馴染は結婚していたのだが、千雪をその男に合わせてはだめだと、心の中で警鐘が鳴り響いていた。
 結局、すったもんだあったものの、何とか千雪を元のさやに戻したのだ。
 あれから、また千雪に別れる切れるを言わせないように、自分でも度が過ぎているとはわかっていたが、出来得る限り千雪の傍にいた。
 完全に自分がストーカーと化していたことはわかっていた。
 或いは速水の言うようにまるで母親のごとく世話をやいていた。
「俺、このまま京助に依存しっぱなしやと、俺、一人で生きて行かれへんようになってしまうわ」
「ハ、何を言ってるんだ?」
 しかし、千雪の考えを撤回させたいという思いとは裏腹な言葉が京助の口から飛び出した。
「研二が一人に戻ったから、やっぱり研二を選ぶってか?」
「そうや」
 京助は一瞬言葉を失った。
 よもやそれほどはっきり千雪が肯定するとは、京助も思っていなかった。
「ほな、行くとこあるよって」
 その時振り返った千雪を京助は息をのんで見つめた。
 これまで容姿などにさほど頓着したことのない京助は、周囲の人間が言う程その千雪の美貌を顧みたことなどなかった。
 それを今さらながらに気づかされたかのような気がした。
「おい、千雪!」
 コートを翻して足早に立ち去った千雪を京助は追うこともできずにいた。
 いずれ千雪が研二のところに戻るのではないかと危惧していた。
 軽井沢へ千雪や研二らを連れて行った時に、千雪と研二が二人でじゃれ合っているところを見た京助は、おかしなことに、まさしく互いにベターハーフな存在のようだと思ったのだ。
 しかも根底にある子どもの頃からの絆という確固としたものがある。
 フン、と京助は自嘲した。
 笑うしかないだろう、こんな展開は。
「先輩!」
 駆け寄ってきたのは佐久間だった。
「今のって、千雪先輩ですよね? 一体全体どないしたんです?」
「さあな」
 あっさり別れ話をして千雪は去ったとは口にしたくもなかった。
「何やおかしい思うとったんやけど、今朝から、千雪先輩」
「あ?」
「心ここにあらずみたいな感じでずっと上の空で」
「上の空?」
 それは別れ話とはまた別のことのような気がした。
 精神的に不安定なのはさっきのようすで一目瞭然だ。
 江美子のこともおそらく関係しているのだろうが。
 何を抱えている? 千雪。
 京助は千雪の去った方を京助は険しい顔で睨み付けた。

 


back  next  top  Novels