「すみません、これ、期限切れてしもてて」
カウンター越しにいつもの司書に声をかけた千雪は、司書が本を見て千雪を見上げて戸惑いの表情を見せているのに気づいた。
「えっと、学部とお名前を」
そう言って自分を凝視する司書を千雪はしばし見つめた。
その表情が心なしか赤らんでいるように見えた千雪は、やっと、ヤバイ、とばかりに本をまた持ち直した。
「あ、また、来ます」
相当ヤバイわ、俺。
学生証で図書館は入れたものだから、ついいつものようにカウンターに持って行ったのだが、気づくのが遅かった。
何やってんね………。
自分の失態ばかりに気を取られていた千雪は、図書館を出ようとして、「おい!」と腕を取られた。
「何やってんだ?」
怒ったような声で聞かれて、千雪はやっと京助を認識した。
「あ、ああ、京助」
京助は千雪の腕を掴んだまま図書館を出ると、「いったいどうしたんだ?」と千雪の顔を覗き込んだ。
「なんや、ちょっと疲れとおるみたいで、アホや、俺」
京助は掴んでいた手を離し、眉を顰める。
「どこか行くのか?」
「あ、あ、ちょっと………」
京助は今朝がたアパートに寄った時にどうやら昨夜、千雪は帰ってきていないらしいこともわかっていた。
だが、ここのところ明らかにおかしいようすの千雪に根掘り葉掘り聞くのも憚られて連絡も取っていなかった。
「お前、大丈夫か?」
歩き出した千雪に歩を合わせて、京助は聞いた。
「ああ」
「ああって、明らかに挙動不審だろうが」
「そう…かも」
「お前、やっぱおかしいぞ」
京助はまた千雪の顔を覗き込んだ。
「そうか? ちょっと疲れとるかな……」
千雪は小首を傾げて京助を見た。
「何かあったのか?」
訝し気な顔で一緒に歩きながら京助は千雪に問いただした。
「いや………いや、そや、言うとかんとあかんことがあったんや」
「あ?」
「俺ら、もう、ただの先輩と後輩に戻らへんか?」
「は?」
京助は険しい顔のまま、意味を計りかねて聞き返した。
「やから今までの付き合いは解消したい言うてる」
歩きながら、千雪は、今日の夕食は鮨がいいくらいな口調で、言った。
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