メリーゴーランド260

back  next  top  Novels


「小夜ねえは、まだ原の家におるいうてたけど」
 結婚届は出したものの、年明けからパリに行くことになっているため、年内は大和屋の仕事を整理したり、引き継いだりするのだと小夜子は言っていた。
「小夜ねえに何か突っ込まれたら困るしな」
 師走の声がすぐ傍まで聞こえてきているこの忙しい時に下手に心配かけたくはない。
「美術館行くのもなあ、人混みはカンベン」
 銀座あたりの画廊などを覗いてみるか、と思う。
 さしあたりその程度の行動力はまだあるらしい。
 ようやく腰を上げたのは四時に近かった。
 今日はもう冬の風が吹きすさび、寒かったので、黒のロングコートを羽織り、マフラーを首に巻き付けた。
 リュックを手にしたところで、机の上に図書館から借りたままの本が置いてあるのに気づいた。
「あかんわ、これ、もう期限過ぎとるわ、とっとと返さんと」
 千雪は何気にリュックに本を入れると肩に引っ掛けて外に出た。
「えっ、えっ、あれ、え??!」
 カフェテリアから出てきてすぐだった。
唐突におかしな声を上げる佐久間を、いい加減疲れていた京助は緩慢に怪訝そうな顔で見た。
 教授の論文の手伝いにここ数日時間を取られた上に、急な解剖が入って昨夜もろくすっぽ寝てなかった京助は、やっと一段落ついてひとまず帰ろうと思っていたがとりあえずコーヒーを飲もうとカフェテリアに寄ったのが運の尽きだ。
ちょうど学部の空手部の反省会をやっていたためにマネージャーの伊藤やこれも引っ張り込まれたくちの佐久間に呼び止められて、しばらく付き合う羽目になったのだ。
ようやく反省会が終わってこれから飲みに行かないかなどと伊藤や佐久間に誘われたのをきっぱり断ったばかりだった。
「先輩!」
「何なんだよ」
「あれって………」
 はっきりと言わない佐久間の視線の方向を見た京助は、確かに驚いた。
 今しがた慌てたようすで小走りに図書館に入って行ったのは千雪だった。
 しかも、入学以来欠かしたことのないコスプレ抜きの素だったから佐久間は伊藤らの手前何と言っていいかわからなかったのだ。
「んじゃな」
「え、飲み会行かないの?」
 伊藤がちょっと甘えたな声で京助の背中に声をかけたが、京助は既に図書館に向って駆け出していた。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます