メリーゴーランド259

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 応接セットのソファに促されて千雪は座っていた。
「何かあったのかね? 君が相談事というのは珍しい」
「ちょっと……ここのところ色々身近であって、精神的に落ち着かへんのです」
 宮島はじっとその次の言葉を待っているようだった。
「というより、何か、いつの間にか、みたいな感じになってて……」
「少し、休んだ方がいいね。何だか、ずっと忙しくし過ぎたこともあるんだろうし、秋に亡くなった友人のこともあるんだろう」
 宮島の方が沈痛な顔で、続けた。
「執筆の方は大丈夫なのかね?」
「それが書けなくて、編集には断りを入れました」
「それは…………私も、君に頼り過ぎたことを反省しているよ。とにかく、休むといい。カウンセリングは受けたのかな? 綾小路くんの知り合いの、速水先生だったか、彼は何曜日だったか、学生のカウンセリングも引き受けてくれているそうじゃないか」
「はい、そうですね」
 一応、話の流れに逆らわず、千雪はそう答えておいた。
 速水なんかにカウンセリングなんて受けるわけがないわ。
 心の中では口にしたのと裏腹な言葉を吐きだした。
 千雪は一端アパートに帰るとしばらくぼんやりしていたが、ふと空腹なのに気がついた。
 そういえば鞄の中にサンドイッチを入れたままだったのを思い出して取り出すと、電気ポットで湯を沸かし、マグカップにコーヒーを入れた。
 一杯ずつのドリップ式を京助が買ってくれているので、千雪でも簡単に入れられる。
 サンドイッチをぱくついてコーヒーを飲んだ千雪は、ほっと一息ついた。
「あかんわ、やっぱ俺、京助に依存し過ぎや」
 あらためて口にすると、生活のあれもこれもが京助の手を借りているのだと次々自覚する。
「三田村の言う通りやなあ」
 教授にはしばらく休んだ方がいいとは言われたものの、休みを取ってどうしようという具体的なことが何もない。
 何度かパソコンに向ったり、ノートにペンで向かってみたりしたのだが、書けないと思うとどうしても文字が書けない。
 これはやはり精神的なものだろうと、自分でもわかる。
 本当にカウンセリングを受けた方がいいようにも思わないでもない。
 だがわざわざ病院に行って誰かと会うことこそが億劫だ。
「さしあたってどないしょう」
 バイクや車でどこかへ出かけようという気も起らない。
 家に帰るというのは京都に帰るということで、今、江美子がいないことを再実感する勇気がない。


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