メリーゴーランド264

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 仕事が一段落して夕方のピークの前に、研二は店を出た。
 すぐに千雪と連絡が取れたことで、研二はほっとしていた。
 昼に三田村と逢い、千雪のようすがおかしいことを聞いた研二は実際、いてもたってもいられなかったのだ。
 しかも、文章が一行も書けないなどと聞いた日には、即千雪に逢いに行きたいところだった。
 何とか仕事のピークを終えたところで、マネージャーの大崎に早退を告げると、大崎は喜んで追い出してくれた。
 研二は紫紀と小夜子の披露宴前から休みといって一日二日取った程度で、大崎を始めスタッフからももう少し休むように言われていたのだが、昨日も真由子を帰して結局店が終わるまで動いていたのだ。
 挨拶もそこそこに店を飛び出した研二は、千雪がいるというギャラリーを目指して銀座四丁目へと足を向けた。
 焦りつつギャラリーのドアを開けた研二だが、千雪はソファに座ってのんびりと絵の作者と話をしていた。
「千雪」
 研二の声に振り返った千雪は、「えろ、早う来たな。店の方はもうええんか?」と聞いた。
「ああ、今日はもう上がった」
「そうか、ほな」
 千雪が立ち上がると、今まで話をしていた、無精髭なのか、わざとなのかわからない顎髭をたくわえた青年も一緒に立ち上がった。
「年一回は作品展やりたいと思っているんで、また来年ぜひ見てください。記帳してくだされば案内状送ります」
 青年は名残惜し気なようすで言った。
 千雪は笑顔を見せて記帳した。
 小林千雪と書いたが、青年が推理作家の小林千雪の名前を知っていたとしても、同姓同名としか思わないだろう。
「ありがとうございました」
 丁寧にお辞儀をする青年に「おおきに」と言うと、研二とともにギャラリーを出た。
「母親が絵を描いとった言うたら、彼の親も絵描きらしゅうて、何や久しぶりに和やかな話した気ぃする」
「温かい色の絵だったな」
 研二の言葉に、「せやろ?」と千雪は振り仰ぐ。
 三田村から話を聞いてから気が気ではなかった研二は、むしろ機嫌が良さそうに見える千雪を見て、少し訝しむ。
 高校までの千雪をずっと見てきた研二には、千雪がいつになく妙に明るく振舞う時は要注意だった経験があったからだ。
 神泉駅に着くと、研二は途中のスーパーで食材を買った。
 肉か魚かを聞くと、千雪が、肉、と答えたので、すき焼きにすることになった。

 


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