春の夢51

back  next  top  Novels


 アレクセイがイヤホンマイクをオンにすると、ティムが矢継ぎ早に喚いた。
「ポールから電話で、ロジァが何者かに拉致されたって言うんだ! どういうことか分からないけど、ポールが…とにかく、あれはただのチンピラや、ギャングや、そんなちゃちいものじゃないって! それであんたなら、分かるかもしれないって…! 早く、来てくれよ!」
 アレクセイは血の気が引いていく思いがした。
 アレクセイは皆が呼び止めるのも聞かずにボックスを飛び出して行った。
 
 
 
 
 
 

 何なのか分からない。
 背筋が薄ら寒い。
 ベッカー? いや、あの男ならポールはそう言うはずだ。
 アレクセイは猛スピードで愛車をスターリングの家へ飛ばした。
 スターリングの家には、ブラックのポール、ダン、グレンの三人とティムがいた。
 ブラックの三人が三人ともひどい怪我をしている。
「何があった?」
 アレクセイの問いに、ポールが早口で状況を説明した。
「はじめは見慣れない、どっかのグループだと思った。俺たちが『ヘル・ストリート』の前でつるんでいたら、十台くらいのバイクが現われた。それが何も言わず、ケンカ吹っかけてきやがった。こっちは大勢だから、ちょろいもんだと油断してた。ところが、俺達が喧嘩してる間に、そこにただ通り掛かったと思った黒塗りの車にロジァが連込まれるのを、ヒューが見てた。ロジァが連れ去られた、って奴が言うんで、俺はまさかと思ったが、もうヒューの奴はバイクに飛び乗って車のあとを追っ掛けてった。俺も追っ掛けようと思ったが、そいつらが邪魔しやがって」
「いつだ? どっちに向かったかも分からないのか?」
 アレクセイが聞くと、ポールは拳でテーブルを叩く。
「つい今し方だ。ブロンクス方面に走ってった。こいつはちょっとのっぴきならねー事態だと思った。ベッカーの仕業とも思ったが、何か違うような気がしたんで、あんたに報せた方がいいと思ってよ」
 アレクセイからすればポールの判断は賞賛に値した。
「連絡を入れるから、ここで待機しててくれ。何か連絡が入ったら、携帯に報せてくれ。それで、万が一、俺も戻らなかったら、ティム、ボックスに報せてくれ!」
 アレクセイはスターリング家の前に停めてあったポルシェをブロンクスに向けて走らせた。
 ベッカーの仕業ならばまさか問題はないと思う。
 しかし、もしもロジァがどういう人間かを知って別の何者かが拉致しようとしたのだとしたら? 
 おそらく使いようによってはとんでもない存在なのは間違いない。

 


back  next  top  Novels