春立つ風に155

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「いや、まあ、海老原って、ここまで会社大きくしたんだから、祖父の理不尽さにたてついて正解だったのかもな」
 そこだけは海老原の気持ちがわからないでもなかった。
 おそらく高校生の野口は海老原のために別れることを承諾したのではないかと、良太は想像した。
 野口も海老原の祖父のことを理不尽だと思っていたに違いない。
 会社は言わずもがな、ダイバシティ経営で、海老原と野口は仕事ではパートナーとして成功を収めたわけだ。
 その野口の招待で、良太と小笠原を迎えに来た例のベントレーで向かった先は五つ星レストランのVIPルームだった。
「今日、わざわざお二人にお越しいただいたのは、『ギャット』でのドラマの撮影が終わられたということで、ご利用いただいたお礼とご迷惑をおかけしたお詫びを兼ねて、席をご用意させていただきました」
 ワインがグラスに注がれてスタッフが下がると野口が言った。
「あ、でも、予備としてまた使わせていただくこともあるかと思いますが……」
 良太は一応、そこのところを強調した。
 おそらく絶対あるに違いないことも予測できる。
「それはわかっておりますが、とりあえず一区切りと言うことで。それから……」
 すると野口の言葉を引き取って、「小笠原さんが美亜に交際を申し込んだってんで、広瀬さんにはちゃんと責任持って監視しろよってのも兼ねて、だな」と海老原が言う。
「は?」
 まさかそんなこととはつゆ知らず、良太は海老原を凝視し、それから小笠原と美亜に視線を移した。
「失礼な言い方をするな」
 すぐに野口は海老原を窘めた。
「申し訳ございませんが、プライベートに関しては会社の感知するところではございませんので、監視などする義務も権利もありません。犯罪に関わるような常識の範疇を超える問題を起こさない限り本人の責任に任せております」
 しかし良太はつい海老原には反応してしまう。
「フーン、なるほど、社長と部下ができちゃってても会社なんか関知しないよってとこだもんな? ったく日本の会社は社内でイチャコラしててもアマアマでズルズルだもんなあ」
 何で知ってるんだ? こいつ!
 だから言ったこっちゃないと良太は小笠原を見たが、俺じゃない、とでも言いたげに首を横に振る。
「先ほども申し上げたように、犯罪に関わるような常識の範疇を超える問題を起こさない限り、業績がものを言えば何も問題はないかと思いますけど? アメリカじゃ、上司と部下の恋愛発覚で上司が辞めるとか、多々あるようですが、恋愛ごときで仕事がダメになるようなら上司なんかやらない方がマシなのでは? それだけで技量のある人材を他社に奪われるようなことになれば、むしろ損害じゃないかと思います」
 わざわざ自分の恋愛の正当性など説くつもりはないものの、海老原に対しては絶対引きたくないという意地で、きっちり言い切った。
「海老原さん、良太、いや広瀬のこと知らないからだろうけど、社長にも会社にも広瀬があってこその会社だし、広瀬は常に会社の利益を考えて動いてますよ」
 だから小笠原、墓穴掘るな! お前は余計なことを言うなっつうの!
 弁護のつもりなのかもしれないが、海老原は匂わせただけなのに、それじゃ全く工藤と俺のことを肯定したことになるだろうが!
 だいたい俺はそうでも、工藤はどうなのかなんてわかりゃしないんだし。
 良太は心の中でキリキリ小笠原に喚き散らした。


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