春立つ風に156

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「なるほど、いわゆるアットホームという名のもとに、みんながナアナアで会社やってるんだ? 社長が社長だからな」
「いい加減にしろ! 失礼なことばかり!」
 人をバカにしたようなことを並べ立てる海老原に腹に据えかねた野口が語気も荒く言い放った。
「失礼過ぎるわ! 礼央」
 それまで黙っていた美亜も海老原を咎める。
「先ほども申しましたが、ナアナアな家庭的な会社ってことで会社の業績に微塵も悪影響を及ぼしたことはありませんけど?」
 海老原、よほど工藤をこき下ろしたいらしいな、と良太は海老原の不遜な態度をしらっとした目で見た。
「海老原さん、ひょっとして大昔のことを根に持って、工藤に意趣返しとかしたかったのなら、すみません、工藤は撮影で来週あたりには戻る予定ですけど」
 海老原に負けじと良太は皮肉った。
 するとフン、と海老原はせせら笑い、手元のワインをグイと空けた。
「んじゃまあ、あとは仲良くやってくれ。俺がいるとせっかくの料理もまずいようだしな」
 海老原はそう言って立ち上がり、ドアに向かう。
「おい、礼央!」
 野口が呼ぶのも無視して、海老原はとっとと部屋を出て行った。
「申し訳ありません、こちらがお招きしておきながら、ご不快な思いをさせてしまいました」
 すかさず野口が良太や小笠原に対して謝罪した。
「いいわよ、イジケムシの礼央のことなんか! 私たちだけで楽しみましょ」
 美亜が野口を促して、ようやく食事に向った。
「これ、ウマ!」
 小笠原がシューにチーズを練り込んだグジェールを一口で食べてから声を上げた。
「あたしもこういうの好き」
 フフフ、と美亜が小笠原と笑い合う。
 良太は二人を見て、小笠原の一方通行でもないのか、と思う。
「海老原のことを庇護するようですが、あれは露悪的で自分勝手なところがありますが、世間知らずなのに業界に身を置いている美亜のことは心配しているようです」
 ふと、野口がそんなことを言った。
「はあ。業界は魑魅魍魎が闊歩するところだと、時々思いますからね、それはわかりますが、でも心強いマネージャーの水谷さんがついておられますし」
「水谷さん、強いですね」
 野口が笑うので良太もつられて笑う。
 海老原が去った後は和やかな食事会となった。
 ベントレーでそれぞれみんなのマンションまで送ってくれた野口に、オフィス前で礼をいい、自分の部屋に戻った途端、携帯がワルキューレを奏でた。
 もう十時をまわってたんだ、と思いつつ良太が電話にでると、「部屋にいるのか」という工藤の声。
「お疲れ様です。今、野口さんに送っていただいたところです。今夜は仕事の親睦ってだけでなくて、小笠原が美亜さんと付き合うことになって、そういう食事会って感じで」
 良太がざっと説明するとしばし間があった。
「プライベートには口は出さないが、羽目を外さないようにしろとだけ小笠原に言っとけ」
「わかりました。今回、小笠原、結構マジに付き合いたいみたいで」
「フン。東洋グループの方は来週、ニューヨークか?」
 映画の撮影がアップした今はそれが工藤の気になるところだろう。

 


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