春立つ風に157

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「はい、かなりタイトですが」
「とにかく沢村に無茶をさせるなって藤堂に伝えろ」
「わかってます」
 球界の人気スラッガーに何かあったら大問題だが、懸念材料はそれこそ沢村自身が突っ走りやすいことだ。
 渡米の前に、沢村本人にもしっかり念をおしておくつもりだ。
 何かあったら、佐々木さんに迷惑がかかるのだと。
 沢村のやつ、佐々木さんと旅行気分でうかうかしてんなよな。
 良太は今一つ心配だが、自分がついて行くわけにもいかない。
「そっちに戻るのは火曜の予定だが、こっちのスケジュール次第では早めに戻る」
 相変わらず、良太が何か言う前にブチっと切れた。
「だから、少しは相手の話も聞けよ!」
 突っ立って携帯に文句を言っていると、いつの間にか猫たちが良太の足元でスリスリして鳴いている。
「おお、お待たせ~」
 二つの小さな頭を撫でてやり、急いでジャージに着替える。
 ズボンの毛はあとで取ることにして、まずは猫たちのご飯だ。
 自動エサやり器をセットする間もなく、出がけに少しドライフード置いて行ったが、良太の顔を見れば、ちょうだい攻撃がやまない猫たちにウエットフードを用意する。
 ちょっと浮かれ気味な自分に気づいて、良太は、俺ってほんっとお手軽~、などと苦笑しないではいられない。
 工藤が早めに戻るとか言っただけでこれだからな。
 大抵、そういう時って、何か別件が入ったりで、逆に遅くなったりするんだ。
「やめよ。考えるとホントになっちまう」
 我ながら健気、と良太はハハハと空笑いした。
 

 

 
 

「良太ちゃんですか? 東京の方、忙しそうですね」
 隅のテーブルを陣取った日比野が、レストルームの近くで電話をしていた工藤に言った。
 京都にいるうち何度か訪れているバーでは、日比野や浅沼と各スタッフのリーダーとが集って、ミーティングを兼ねて飲んでいた。
「いつものことだ」
「でも、工藤さん、せっかく有能な良太ちゃんがいるのに、仕事が増えちゃって、昔より忙しくなってんじゃないですか?」
 MBC時代、まだ互いに若造だった頃にも顔をあわせたことのある日比野と工藤は長い付き合いだ。
 会社を興したばかりの時、短い仕事だったが日比野を誘った。
 『大いなる旅人』は日比野と浅沼と工藤の三人で創り上げてきたもので、激情版はその集大成とも思っているので最初からこだわりや力の入れようが違う。
 それにしてもちょっと前なら、良太を有能などと言われたひにはせせら笑っていた工藤だが、日比野の言葉が世辞ではないことがわかっているので反論もしないでいる。
「誰か一人でもまた入ってくれるといいんですけどね、青山プロにも」
「望み薄だな。良太にしても事情がなきゃうちに入ろうなんざないだろう」
 そう言いながら、工藤はカウンターに一人座る男にちょっと目をやった。
 この男とも付き合いだといえば何年もになるだろう。
 昔は長めの髪を後ろで結わえ、何者かという雰囲気を醸し出していたが、最近ではすっかりフレームレスにスーツも板についたビジネスマンにしか見えず、気配を消している。
 波多野がいるということは、雑魚どもが近くにいるわけか?
 工藤は眉を顰めた。

 


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